殺処分寸前だった野犬の子犬、温かい里親に出会い、すっかり「ウチの子」に
横山ニモくんは、野犬が産んだ子犬だった。生後3カ月くらいの時、兄弟と一緒に保健所に収容された。殺処分の日が刻々と迫る中、保護団体が引き出した。とても怖がりだったが、預かりボランティア宅で人の愛を知り、里親につないでもらうことができた。
■殺処分寸前だった 福岡の保健所が捕獲した子犬
2018年3月、福岡県に野犬がたくさんいる地域があり、保健所が捕獲機をしかけた。生後3カ月くらいの野犬の子犬が捕獲機にかかり、保健所に収容された。犬舎では怯えきっていて、隅のほうに固まっていたという。
1匹は九州の保護団体が引き出すことが決まっていたが、他の子は引き取り手が見つからなかったため、名古屋の保護団体「Peace Love & DB」が引き出して保護した。殺処分寸前だったという。
「九州なのに、なぜ名古屋の保護団体が?」と思われるかもしれないが、他にどの団体も個人も手をあげなかったので、現地のボランティアさんが引き受けてくれる人を探していたという。野犬の子犬で全く人慣れしておらず、一日も早く人と暮らした方が慣れやすいこと、また、少しでも小さい方が里親さんに譲渡されやすいという事情があった。
「田舎には雑種も雑種の子犬も溢れていますが、都会には子犬はなかなかいないため、雑種でも里親さんが見つかりやすいのです」
「Peace Love & DB」は、4匹の子犬兄弟と一緒に、同じくらいの月齢の雑種の子犬を4匹引き出した。全部で8匹。当時活動していたボランティアさんだけでは手が回らず、新たに預かりボランティアを募集したところ、東京の人が2名希望してくれた。4匹の子犬兄弟のうちの1匹、ニモくんは東京のボランティアのところに行くことになった。
■ライフスタイルに合う犬を選ぶ
預かりボランティア宅に来たニモくんは、見知らぬ家や見知らぬ人に緊張して、オシッコやウンチをもらした。ごはんも残して、縮こまって寝ていた。ニモくんは、兄弟の中でも1、2を争う怖がりだったのだ。しかし、ボランティア宅の家族がゆっくり、ゆっくり人に慣れさせ、次第に心を開いていったという。野犬の子の場合、生後2カ月を過ぎるとなかなか人慣れしにくいのだが、なんとかおもちゃで遊ぶことや散歩を覚えさせることができ、譲渡サイトで里親を募集した。
その頃、東京都に住む横山さんは、戸建て住宅を購入し、犬を飼えるようになったので、犬を探していた。
「姉も犬が好きで、盲導犬や聴導犬にも興味があって、保健所に収容される犬がいることも教えてくれたんです。幼い頃から犬を飼うのなら保護犬をもらおうと家族で話していたんです」
横山さんは、いろんな譲渡サイトを見た。共働きだったので、子犬は難しい。1歳くらいの子がいいと思っていた。ニモくんは、お留守番ができるいい子だと書いてあった。
「写真を見た時、ああ、可愛い!と思いました。犬を飼うのは初めてだったので、ライフスタイルに合う子を選びました」
■「すっかりウチの子」に
2019年4月にニモくんに会いに行った。小さなドッグランのようなところで会ったのだが、二モくんは思っていた以上に怖がりで、尻尾を引っ込めて後ずさりして、まったく触れなかった。横山さんは、時間がかかるだろうなと思ったが、それでもいい、時間がかかってもニモがいいと心に決めた。ゴールデンウイークに合わせてトライアルをスタートすることになった。
「トライアルで返されてしまうことが多いので、本当に大丈夫なのか、覚悟はあるのかと何度も念を押されました。人のごはんの匂いを嗅いだだけで返されることもあるそうです。人懐っこい子は誰かがもらってくれるでしょうけど、二モは残ってしまうかもしれないと思いました」
4月30日からトライアルを開始。尻尾は垂れていたが、首輪はつけさせてくれて、なでることもできた。一週間もすると、なでるのをやめると前脚でちょいちょいと要求してきた。
「預かりボランティアさんのところで優しくしてもらっていたので、人慣れするのは早かったんです」
一番苦労したのはごはんで、食べたり食べなかったり、あれこれフードを変えるフードジプシーも随分したそうだ。やっと10月くらいから食べてくれるようになった。
「そろそろ出かけるという時は、リビングに設置したお留守番スペースに自分から入ってくれるんです。知らない人が来ると最初は怯えるのですが、私と主人にはお腹を見せてくれるし、家では脚を伸ばして寝ています。誰にでも愛想いいわけではない。自分たちだけに心を許してくれるのが嬉しいんです」