東京マラソン「参加料返金しない」は法的に問題は…元アイドル平松弁護士に聞く
東京マラソン主催者が3月1日に行う東京マラソンについて、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて一般ランナー抜きで実施することと、規約に基づいて参加料や寄付金は返金しないと発表した。ネット上では「信じられない対応」などと疑問の声が多い。「規約に基づいて返金しない」ことは法的になんら問題はないのか。元アイドルとして活躍した平松まゆき弁護士にQ&A方式で解説してもらった。
Q 東京マラソン主催者は、参加予定だった一般ランナーには来年の出場権を与えるものの規約に基づいて参加料や寄付金は返金しない、来年の参加料も別途必要としています。これは法的に有効なのでしょうか?
A まず、東京マラソンエントリー規約はどうなっているかというと、規約13に「積雪、大雨による増水、強風による建物等の損壊の発生、落雷や竜巻、コース周辺の建物から火災発生等によりコースが通行不能になった結果の中止の場合、関係当局より中止要請を受けた場合、日本国内における地震による中止の場合、Jアラート発令による中止の場合(戦争・テロを除く)は、参加料のみ返金いたします。なお、それ以外の大会中止の場合、返金はいたしません。」となっています。今回の新型コロナウィルス問題は、この規約の「それ以外」にあたるので返金なしと判断したものだと思います。この規約が法的に無効であれば返金可能ということになろうかと思いますが、たとえば民法や消費者契約法の条文を駆使して、公序良俗に反するとか消費者の利益を一方的に害すると言い切るのはハードルが高い印象です。今回の事態は誰にも予想できなかったことですから、すでに莫大な経費を投じているであろう主催者側に、その全責任を負わせるというのも少し違和感を覚えますね。
Q そもそもエントリー規約の隅々まで読んで理解してから応募する人は少ないと思います。事態が生じた後になって規約を持ち出されるのは不当だと言えませんか?
A 実際にホームページを拝見しましたが、規約が小さすぎて一般人にはまったく読めない、アクセスするのが非常に難しい、難解すぎるということもなさそうです。そうであれば規約に同意して応募したということになり、その論法は通らないでしょう。
Q 参加料は1万6200円で、この額だからなんとなくあきらめようと思う人もいるでしょうが、これが極端な話、100万円ならあきらめられないはずです。「規約に基づき」という一方的な通告で済ませていいのかという疑問があるのですが。
A たしかにそうですね。一般ランナーが東京マラソンのために時間やエネルギーを注いできたお気持ちの問題もあるでしょう。個人的には規約の無効を争うのではなく、規約は有効だとしても、コロナウイルス感染が拡大する現状が規約13が想定している事態に「準ずる」事態だと解釈することができるのではないかと考えています。つまり規約13はあくまでも「例示列挙」であって、今回のケースは規約13が想定している事態との明確な区別はできないのではないかというものです。とはいえその解釈の争いをしている間に次の東京マラソンがやってきそうです。せめて来年の参加料減額とか、何かしらの配慮があったら嬉しいですよね。
◆平松 まゆき 弁護士。大分県別府市出身。12歳のころ「東ハトオールレーズンプリンセスコンテスト」でグランプリを獲得し芸能界入り。17歳の時に「たかが恋よされど恋ね」で歌手デビュー。「世界ふしぎ発見!」のエンディング曲に。20歳で立教大学に入学。芸能活動をやめる。卒業後は一般企業に就職。2010年に名古屋大学法科大学院入学。15年司法試験合格。17年大分市で平松法律事務所開設。ハンセン病元患者家族国家賠償訴訟の原告弁護団の1人。