がん家族セラピストが垣間見た…ダブル看護「地獄」の現実 「第二の患者」は多くの苦悩を抱える
日本人の三大疾病のひとつは「がん」だということはよく知られています。でも、みなさんはがんによって「二人の患者」が作り出されてしまうことをご存知でしょうか?
国立がん研究センターでも次のように提唱しています。がんは患者だけでなく、支える家族も「第二の患者」と言われるほど苦悩を抱えることが多いと。
私自身も、がんを患った父の看病をした経験から、患者同様、家族に支援が必要だと考えました。そして今では、「第二の患者」を「がん家族」と呼び、がん家族セラピストとしてボランティアを行うようになりました。
がんの生存率は、年を追うごとに高まっています。そのため、病院で治療するというより、生活の中に治療があるというのが実情です。つまり、がん患者だけでなく、生活を共にする家族も一緒にがんと向き合い、治療のキーマンになります。
私がボランティア活動で出会ったがん家族は、悲しみの中にも力強さがありました。そしてほとんどの方が、少しの手助けを得るだけで、自分達が望む看病が出来るようになり、泣いてばかりだったのが笑顔になり、患者との生活を普通に送れるようになっています。私は、そんながん家族の方々の笑顔を取り戻すお手伝いがしたくて、ボランティア活動を続けています。
数年前、大阪にある総合病院で活動していた時のことです。私は心身が弱っている方に、ハンドリフレクソロジーという癒やしを提供していました。簡単に言えば、手にある反射区(ツボのようなもの)に優しく触れるマッサージのようなものです。
ある晴れた日のことです。いつものように病室へうかがうと、そこには高齢の女性がベッドに寝ておられ、横には50歳くらいの娘さんが付き添っていました。
まず患者本人に了承を得てハンドリフレクソロジーを行いました。次に、付き添っていた娘さんにもハンドリフレクソロジーをしますよと、声をかけると、まさか自分までと驚きながら、喜んで受けたいとおっしゃってくれました。
私と娘さんは、患者さんの邪魔にならないように、ソファーが置いてある休憩場所へ移動をしました。
私がハンドリフレクソロジーに使うアロマオイルやタオルなどを用意をしていると、娘さんはアロマオイルに関心を持たれたようで、手に取ったり、香りをかいだりしながら、気楽な様子でした。
準備も整い、椅子に座っている娘さんの右手に軽く触れ、ハンドリフレクソロジーを行うと、娘さんは目を閉じてリラックスをされているようでした。
ハンドリフレクソロジーが進み、左手に差し掛かった時、娘さんの目から涙が落ちてきました。ハンドリフレクソロジーをする手を止めず静かに見守っていると、娘さんがとつとつと話し始めたのです。
娘さんの話では、自分は九州に家族と住んでいるのですが、母親がコチラに入院をしていて危険な状態になったので、看病に来たのだそうです。しかし、大阪に来てからもう1ヶ月になるので自分の家族の事が心配になってきたので、そろそろ帰る予定にしているとのこと。
でも実は父親も近くの病院で入院中という状況に、地獄だと泣きながら話されていました。そして娘さんはひとしきり泣いた後、きゅっと口角を上げてこうおっしゃっていました。
「自分にも声をかけてくれる人がいたなんて思わなかった。一人で悩んでいたので救われた思いです」
ハンドリフレクソロジーを終えて、病室へ戻る娘さんを見送りながら考えました。もし、自分の家族ががんを患ったら、それだけでも看病は大変です。さらに病人が重なったら、果たして自分の生活は守られるのだろうか。今回の娘さんの状況は、決して特別なことではないのだと思います。
もしも、みなさんが複数の家族を看病するという状況になったら、一人で乗り越えられますか?協力者はいますか?試しに紙に、いざとなったら協力してくれる人の名前を書いてみてください。自分の周りにいる協力者を意識できるかも知れません。
(まいどなニュース特約・酒井 たえこ)