制作7年半、作画4万枚!前代未聞の自主制作アニメ映画「音楽」はなぜ完成できたのか
制作期間7年半、作画枚数は全て手描きで実に4万枚超-。
これを完全自主制作で成し遂げた、執念と奇跡の長編アニメーション映画「音楽」が劇場公開され、熱い注目を集めている。大橋裕之が2005年に描いた同名漫画を原作に、岩井澤健治監督が人生を懸けて制作。「無謀だと笑われても完成すれば必ず評価される」と信じ、気が遠くなるような作業をひたすら続けてきた岩井澤監督と大橋が、2月22日夜、公開初日の元町映画館(神戸)に登場した。
楽器を触ったこともない不良学生3人が、思いつきでバンドを組むことから始まるロック奇譚。唯一無二の絵柄で描かれた原作の空気感はそのままに、実写映像の動きをトレースする「ロトスコープ」という技法で71分の作品に仕上げている。制作資金はクラウドファンディングなどで調達。「せーの」でバンドの音が鳴るあの瞬間、あの高揚感を見事に表現した珠玉のシーン、さらには元ゆらゆら帝国の坂本慎太郎や岡村靖幸、竹中直人、前野朋哉ら声優陣の錚々たる顔ぶれなども話題になっている。
■7年半、信念が揺らぐことはなかった
岩井澤監督と大橋は上映終了後、通路まで観客で埋まった劇場で舞台挨拶。「長い制作期間中、自分を見失うことはなかったか」という客席からの質問に、岩井澤監督は「今までにないタイプの作品で、なおかつエンターテインメント性を意識して作ったので、絶対に受け入れられるはずだという確信があった。信じているゴールが揺らぐことはなかったですね」と力強く回答。その一方で「仮に日本がダメでも、海外があると思っていたので」と笑わせた。
とはいえ、やはり心が折れそうになる夜は何度もあったという。
「3年作り続けて、まだ2割とかしかできていない。そういう現実を意識してしまうと、どうしてもしんどくなったり、叫びたくなったりしました。そんなときは、とりあえず先しか見ないことにしようと自己暗示をかけて、『ダメだったら人のせいにする』くらいの気持ちで自分を保った。結果的に7年半で完成にこぎ着けたけど、下手したら10年、15年かかっていたかもしれません」
いつかは完成すると信じていた大橋も「進捗を尋ねると『あと1年』、翌年聞いても『あと1年』と毎年のように延びていたので、完成して本当に良かった。早く岩井澤さんにお金が入りますように」と労った。
■誰も見たことがないものを!
それにしても、7年半である。「音楽」のアニメ化に、ここまで懸けることができたのはどうしてだろう。舞台挨拶とサイン会を終えた岩井澤監督に聞いた。
「やっぱり、こういう作品が世の中に存在しないから。自分は今、誰も見たことがない、新しいものを作っているんだと信じてやり抜きました」
「自分も短編アニメを作っていたのでわかるのですが、あの世界にはものすごい才能がたくさんいるんです。そんな人たちにとって、個人で長編を作って劇場で公開するのは大きな夢。この『音楽』をきっかけに、映画やアニメの表現の幅がさらに広がり、エンタメ界が盛り上がってほしいと思っています」
原作者の大橋も「100点を超えた。こんなアニメは他にない」と太鼓判を押す「音楽」は、元町映画館では3月6日まで上映。
■「音楽」公式サイト http://on-gaku.info/
(まいどなニュース・黒川 裕生)