半日かかっていた死亡手続きが40~50分に! 広がる自治体の「おくやみコーナー」…設置した奈良市に聞く
家族を亡くした遺族にとって、葬儀の手配と仕切りだけでも大変な負担だが、そこに加えて、役所での各種届出の手続きを行わねばならない。死亡に関する手続きの種類は国民健康保険・後期高齢者医療保険の葬祭費の支給申請や保険料に関する相続人代表者届、介護保険料の還付や高額介護サービス費の振込口座変更届など、25とも40ともいわれており、担当する窓口もそれぞれ異なる。そのため、いくつもの窓口をまわる「窓口巡礼」が常態化していた。
そういった負担を減らすため、ひとつの窓口でほとんどの手続きが完結する「おくやみコーナー」を設ける動きが全国の自治体に広がり始めている。奈良市では2019年11月1日から、奈良県内では初めて同コーナーの運用を始めたという。市民課長の中川佳男さんに、お話を伺った。
■ひとつの窓口で各種手続きが完結…「窓口巡礼」を解消
「これまでは、ひとつの手続きを済ませたら、次の窓口へ行って番号札を取り、はじめから順番待ちをしなければなりませんでした。やっと順番がまわってきて終わったと思ったら、また次の窓口で順番待ちというように、書類が変わるたびに窓口も変えて、手続きだけで半日ほど潰れるのが当たり前でした。無駄な待ち時間が多すぎたのです。おくやみコーナーの運用を始めてからは、短い人で30分くらい、平均でだいたい40~50分でほとんどの手続きが終わります」
半日かかっていた手続きが40~50分で済ませられるとは、どのような仕組みになっているのだろうか。
「おくやみコーナーの利用は原則として、電話で予約していただきます。そのお電話で、亡くなられた方の情報をお聞きし、それを基に市役所が持つ情報を確認します。そして当日コーナーに来ていただいたときには、専用端末を使ってこちらが用意した26項目の質問に答えていただきながら、その人に必要な手続きの種類を抽出します。同時に、申請書類に死亡者・届出者の住所・氏名などが印字され、ハンコを押していただくだけで書類が完成するわけです」
筆者の経験でも、役所の書類作成で何が面倒かといえば、書類が変わるごとに住所と名前を何度も書かねばならないことだった。
予約の電話を入れたとき、ハンコや健康保険証あるいは個人番号カードなど、何を持っていったらいいかも案内してくれるので、窓口で書類を書き始めてからありがちな「あれがない、これがない」というトラブルも防げる。
「同じことを何度も書く手間が省けるだけでも、ご利用者様の負担はずいぶん軽くなります」
負担が減ったのは遺族だけではない。各課の窓口業務に携わる職員の負担もコーナーができて、軽減されたという。
では、おくやみコーナーを利用する人は、実際にどれだけいるのだろうか。
「運用を始めた昨年11月は、予約あり・なしを合わせて、1日平均6.15人。12月は(年末の休みがあったので)5.85人。1月は8.79人に増えています」
手続きの種類でいうと、福祉医療課が扱う「後期高齢者医療の葬祭費支給申請・保険料等還付用の相続人代表者届」、次いで介護福祉課が扱う「介護保険料の還付金」の手続きが多い。
■手続きの種類によっては担当課へ案内することもある
おくやみコーナーでは、各課の窓口で行う手続きをでき得る限り一括して行える体制になっているのだが、必ずしもそうでない場合もあるという。
たとえば子供を亡くした親御さんには、手続きと併せて相談業務も一緒に行えるよう、子ども育成課へ直接案内することがある。また年金関係の手続きは、最終的には年金事務所へ行ってもらうが、国民年金係であらかじめ相談すれば、役所で取っておくべき書類を用意することができる。
■システムは今も進化の途上にある
おくやみコーナーは市長(仲川げん氏・3期目)のトップダウンにより、約1年間の準備期間を経て設置された。すでに同じ趣旨で運用されている窓口が三重県松阪市にあったので、中川課長を含む市職員3名とシステム構築を担当する業者が同市を視察し、運用ノウハウを得て、奈良市の実情に合わせて微修正を行った。
「今でも専用端末を使って質問する項目内容を見直したり、印刷する申請書類等を追加したりするなど、随時システムに手を加えています」
専従のスタッフは3名いるが、日中に常時対応しているのは2名だ。次第に市民の間に周知されてきて、利用者が増える傾向にある。すでに手いっぱいの状態で頑張っているという。
おくやみコーナーは奈良市が参考にした三重県松阪市のほか、大分県別府市、兵庫県神戸市、三田市などでも同じような窓口が運用されているという。筆者の個人的な感想をいえば、いわゆる窓口巡礼を「仕方ない」とか「役所はそういうところ」と諦めてしまうのではなく、もっと広く全国に広がってほしいと感じた。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)