「うちの子、避難所に行けますか?」…必要な備え、配慮は【自閉スペクトラム症編】
3月11日で、東日本大震災から丸9年。死者・行方不明者合わせて2万人を超える方々がお亡くなりになり、ピーク時で38万人以上が避難所生活を余儀なくされましたが、日本自閉症協会のまとめでは、自閉症の子どもたちの多くが避難所に入れなかったり、入れたとしても泣き叫んだり飛び跳ねるために怒鳴りつけられたりし、車中や被災した自宅、親戚の家を転々とするなどの生活を送らざるを得なかったといいます。
25年前の阪神・淡路大震災でも、障害のある子どもや保護者の多くが行き場を失いました。そして今も、自閉症スペクトラムの子どもを持つ保護者の多くが「どんな風になるのか分からない」「人との関わりが苦手なので、人が集まる避難所生活には漠然とした不安がある」「音に敏感なので、ざわざわとした雰囲気だとパニックになるかも」などと不安を抱えています。
■ 避難所生活における自閉スペクトラム症児の「衣」「食」「住」の課題
自閉症スペクトラムの子どもに多いのは「初めての場所や環境の変化に適応することが苦手」という特性です。そのため、普段と違う災害時の避難所生活は、子どもにとって「衣・食・住」すべてにおいてかなりの精神的負担がかかることが想像できます。
「衣」に関する課題では、気に入った物以外は着ようとしない(着る服の色を決めていることもある)ため、急な避難で着替えが準備できなかった場合、不安になったり、そのままの衣服で何日も過ごすことになり、不衛生にもなりやすくなります。
「食」では偏食が強い子どもが多く、食べ物にもこだわりや感覚過敏(食べものの食材の感触の好き嫌い)があり、食べられる物が限定される場合があるため、配給される食べ物の中に食べられる物がなければ、空腹のまま過ごすことになってしまうことも。
「住」では感覚の特性から、極端な暑がりまたは寒がりだったり、「風が顔や体に当たる感覚が好き」なため、冬でも扇風機にあたっていないと機嫌が悪くなったりする子どもも。聴覚過敏がある子どもにとって、体育館のような音が反響しやすい場所では、不安が増強しますし、視覚過敏がある子どもには、広い空間が広がっていること自体に恐怖感を覚えることもあります。さらに、感覚遊びが好きな子どもの場合、床の目や壁に沿って走り出す遊びをやめられなくなる場合もあり、それを制止することでパニックにつながることがあるのです。
■ 特性を踏まえた取り組みを
とはいえ、それぞれの子どもの特性は一様ではありません。その上で、少しでも不安を減らすために、(1)事前準備、(2)避難所での環境設定、(3)第三者に理解してもらうための取り組み、(4)保護者への支援-という4つの視点からご紹介します。
(1)…事前準備(災害に備える準備として)
自閉スペクトラム症の子どもは、好きな感触(感覚)と苦手な感触(感覚)がはっきりしていることが多いので、子どもの特性や状況を分かりやすくまとめた「子どもの説明書(解説書)」を作成しておくのは有効な対策の一つ。さらに、子どもが安心するグッズ(好きな玩具やゲーム、感触系玩具等)や食べられる物や着られる物を防災袋の中に入れておくのも良い手です。
例えば、私の運営する事業所のご利用者の中に「お気に入りのタオルケットを持っていれば安心する」というお子さんがいます。気持ちの切り替えが上手くいかずにパニックになりそうになったとき、お母さんがそのタオルケットを渡してあげると、次第に落ち着き、やがて気持ちを自分で切り替えることができるようになります。
(2)…避難所での環境面での工夫(環境設定)
一人になれる場所があることで、自分で気持ちを落ち着けることができる子どももいます。空き教室などで、大人が見守りつつ落ち着いて過ごせる隔離スペースを確保したり、イヤーマフラーや感覚遊びのグッズ(例えば、トランポリンやスクイーズまたはスライムのように感触を楽しめるもの)を準備しておくと気持ちが落ち着きます。こういった遊具は、すべての子どもにとって、ストレス発散の場所として使えるので一石二鳥なのです。
また、困った状況やストレスをうまく言葉にできない子どもの場合、「困っています」「助けてください」というヘルプカードを用意しておくことで安心につながります。
(3)…周囲へ理解を促す
また、子どもの特性について具体的に周囲の人たちに周知することは、大変だし、ドタバタしたときに気が引けるかもしれませんが、とても大切なことです。事前準備した「子どもの説明書」を必要な時に見せるのも一手。口頭で説明するよりも、文書や図などで見せたほうが、周囲の理解は得られやすいでしょう。
(4)…家族(保護者)支援
最後に、これは周囲の方々にも知って頂きたいのですが、保護者の方の心のケアやストレス発散の時間と場所の提供は、見落とされがちですが大変重要です。被災のストレスに加え、子どもの特性の理解が得られないまま避難所で過ごすことは二重のストレスとなり、それは子どもにも悪影響を及ぼします。
周囲の方が子どもの様子を見守るなど協力したり、悩み相談や専門家のアドバイスを受けられるような仕組みがあれば、息が付けますし、気持ちがラクになることは少なくありません。
これは一般の避難者の方々へのケアにも共通しますが、避難所のボランティアに心理士や言語聴覚士などのボランティアを確保したり、ネットを活用し、オンラインですぐに相談ができるシステムを作ることも検討するべきでしょう。
■ こんな関わり方はNG!
最後に、以下のような関わりは、子どもを余計に萎縮させ、気持ちの不安感が増すことにつながりますので注意が必要です。
・苦手なことを繰り返しすることで慣れさせようとする。
不安が余計に高くなるため、苦手なことや苦手なものは遠ざける方が効果的です。
・我慢させようとする。
我慢をさせることで、余計に不安が高くなり、パニックがひどくなるなどにつながることも。それよりも運動などの活動(運動や好きな感覚刺激を入れるなど)を取り入れることで、ストレス軽減を図りましょう。
災害はいつ起きてもおかしくありません。自閉症スペクトラムの子どもは一般より精神的負担が大きくなってしまうのを踏まえて手立てや工夫を事前に講じておくとともに、無理に環境に順応させようとするのではなく、子どものストレス軽減の方法や手段について、保護者だけでなく、行政や発達障害の専門家なども一緒に手立てを考えていくことが大切だと思います。
◆西村 猛 脱公務員。株式会社ILLUMINATE代表取締役。子育て支援の事業所を複数経営。幼児期の発達が専門の理学療法士。子どもと姿勢研究所代表。「日本で一番、保育士さんを応援する理学療法士」として全国各地の保育園で幼児の運動発達に関する講義を実践中。キャッチコピーは「特技ものまね、趣味立ち話」。うんちくんグッズ集めに余念がない。