スケートリンク減少への危機感…元フィギュア選手・無良崇人さんが新たな挑戦で目指すもの

 スケート教室でもなければ、アイスショーでもない。そんな新しいイベントが2月末、岡山国際スケートリンクで行われた。その名も「Get in ice 氷上シェアミーティング」。全国から100名ほどが集まり、スケーティングパフォーマンスユニット「チームオレンジチアーズ」に所属するフィギュアスケート元日本代表の無良崇人さん、橋本誠也さん、川原星さんらと一緒に滑って“氷上シェア”を楽しんだ。模範演技やトークショーはなく、同じ氷の上に立つ時間を楽しむという形式。ここには無良さんたちの「少しずつでも、リンクの利用者を増やしたい」という思いが込められていた。

 「去年くらいから、『艦これ(ゲーム『艦隊これくしょん-艦これ-』)』ファンの方がスケートを始める現象が起きていて。みんなで何か一緒にできる機会があれば、練習にやりがいを感じてもらえるんじゃないかなと思っていました。今までスケートは子どもがするイメージが強かったんですけど、大人だってスケートをやってみたい人、楽しんでくれる人がたくさんいます」と無良さんは話す。

 実際、イベント参加者は半数以上が大人。『艦これ』やアニメ『ユーリ!!! on ICE』をきっかけに最近スケートを始めた人も多くいた。

 これまで、スケートファンのコア層は50代女性で競技を見ることに関心が高いと言われ、自分で滑る大人は決して多くなかった。一方で選手を目指す子どもは増えたもののリンクは減り、「東京近郊のスケートクラブでは人数が上限になってクラブに入れない子も出ています」と橋本さんは言う。一般的に、リンク経営には一般滑走での利用者が重要。選手による貸切り利用が多くても、レジャー利用者が少ない地方のリンクは経営が苦しくなりやすい。

 イベント前には、経営難で閉鎖検討中の福岡パピオアイスアリーナの存続を訴える署名活動が行われ、現役時代に同リンクを練習拠点にしていた川原さんの呼びかけに多くの方が協力した。

「そんな状況になっているなんて知らなかった、という方も多いので、もっと声を上げないといけない。今は神戸でインストラクターをしているので、僕にとっては“リンクがなくなる=職場がなくなる”なので他人事じゃない」。閉鎖の影響は選手だけでなく、スケート関係者すべてに及ぶ大きな問題だ。

 「リンクがないと練習すらできない競技だからこそ、全国的に減ってきている状況をなんとかしないとっていう危機感が僕らもあります(無良さん)」。

 福岡パピオアイスアリーナを運営する西部ガス興商株式会社によると、維持管理費は年間約1億円で累積赤字は約20億円。さらに今後、設備改修で約5億円が必要だという。

 同社スポーツ健康部部長の出口浩さんは、「ファンからたくさんお声をいただいて、大変ありがたいけれど心苦しい」と胸の内を明かす。行政の支援を期待したいが、「あくまでも民間企業の事業なので、こちらからお願いするのは難しい」。署名活動をきっかけに県や市にリンクの必要性が伝わることを願うしかないのが現状だ。

 「14年前、鳥取のリンクが閉鎖された時と似た状況」と話すのは、NPO法人アイススポーツ鳥取の広報部・高木彰一さん。「ただ14年前と大きく違うのは、世の中のネット活用力とスケート競技への関心の高さ。行政のみならず、県内外の企業からの支援や運営アイデアで、スケート環境を支える新たな仕組み作りができれば良いのですが…」と気に掛ける。

 高木さんは今回の「氷上シェアミーティング」の企画、協力にも携わっている。“氷上シェア”という形にしたのは、アイスショーやスケート教室よりも低予算かつ頻度をあげることで参加しやすくするためだ。「スケートリンクに人が集まってくる新しい仕掛けを発信したい」とイベントの定着を目指す。

 「1人でも多くの人にスケートの楽しさを知ってほしいし、氷に乗ってみる機会を増やしたい(橋本さん)」。これはすべてのスケート関係者に共通する思いだ。それがリンクを支え、選手を育てる環境を作り、ひいては今後のスケート人気の維持にもつながる。スケートは見る専門で…という方もまずは一度、スケーターたちが見ている氷の上の景色を味わってみてはどうだろうか。

(まいどなニュース特約・藤井 七菜)

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