コロナで大打撃のライブハウスに力を!異例のクチパク公演で自粛に一石投じたミュージシャン
新型コロナウイルスの感染拡大により、音楽や演劇などのライブ・エンタテインメント業界も今、甚大な被害を受けている。中でも大阪市内で複数の感染者が確認されたことを受けてイメージが悪化した各地のライブハウスは、公演の延期や中止が相次ぐなど、軒並み深刻な状況に。「このままでは音楽を楽しむ場が失われてしまう」。危機感を覚えた1人のミュージシャンが数日前、大阪府堺市のライブハウス「堺FANDANGO」で、事前に録音した歌に合わせてパフォーマンスする異例の“クチパク”ライブを敢行。「ライブハウスの灯を消すな!」という体を張ったメッセージが、音楽ファンや関係者の胸を熱くさせた。そのソロユニット「クリトリック・リス」として活動するスギム氏に、ライブに込めた思いや現在の状況などについて聞いた。
■厳戒態勢のライブ決行、自分なりの“姿勢”示す
パンツ一丁で赤裸々な人生を歌う“下ネタのナポレオン”ことクリトリック・リス。元サラリーマンのスギム氏は36歳から活動を始め、年間200本ほどのライブをこなす。2019年4月には、50歳を記念した日比谷野音ワンマンを成功させたことでも話題になった。
普段スギム氏が活動拠点としているのは、全国の小さなライブハウスだ。特に老舗のFANDANGOとは、移転前の大阪・十三時代から浅からぬ縁がある。
スギム氏は、イベントの自粛ムードが一気に高まってからのFANDANGOのスケジュールが壊滅的な状態になっていることに心を痛め、飛沫感染防止などに万全を期した“クチパク”でのライブを決意。間隔を十分空けるために定員200人のところを50人限定とし、入場時には必ずマスクを着用するよう呼びかけた。本番以外の時間はドアを開いて換気にも努め、消毒も徹底したという。
歌とMC、そしてアンコールも全て前日に録音し、約1時間のステージに臨んだスギム氏。当日の雰囲気について「マスクをしているので“演奏”中はみんなお酒が飲めない。暴れるお客さんもおらず、いつもより平和でしたね」と笑いながら振り返る。勤め先からライブハウスに行くことを禁じられているため、「少しでも力になりたい」とチケット代だけ払って中に入らずに帰った人もいたそうだ。
■ライブハウスを活かすアイデアを
演奏の動画配信などではなく、あえてクチパクでのライブを選んだ理由について、スギム氏は「ライブハウスはお客さんに来てもらわないと成り立たないんです」と説明。「もちろん配信もひとつの手段ですが、まずはお客さんに安心して戻ってきてもらいたい。僕がライブハウスのためにできることを考えた結果、ああいう形になりました」と話す。
「いろんな考え方があるし、自粛が間違っているとも思いません。でもこのままライブをできない状態が続き、照明さんとかPAさんといったエンジニアが食べられなくなって別の仕事に就いてしまうと、ライブハウスはこの先もう営業ができなくなる。僕はそれが一番怖いんです」
依然、先行きが見えない新型コロナ禍。コンサートプロモーターズ協会などによると、音楽や演劇の3月末までの中止・延期は1550公演、損害額は450億円に及ぶという。「同業者と顔を合わせると、今はどうしても『大変やな』という話になりがちですが、どうしたらいいかなんて誰にもわかりません」とスギム氏。「それでも『やるか、自粛か』という単純な話で終わらせず、こんなときだからこそみんなでアイデアを出し合い、ライブハウスを活かす方法を考えないと」と力を込める。
■元気なライブハウスを取り戻せ!
一方スギム氏は、今回のことでライブハウスに対して誤ったイメージが広まることも危惧しているという。
「平日なんかはあまりお客さん入ってないんですよ。ぎゅうぎゅう詰めで汗にまみれて拳を突き上げて…みたいな日は月に数回あるかどうか。個人的には、お客さんがそんなにいなければ、感染対策、そして人と接触するパフォーマンスなども規制した上で、ライブをやってもいいのではないかと思っています」
「また、今は若者というより、30代半ばより上の人が主な客層だと感じます。昔のように無秩序で無茶苦茶なライブハウスも全然ありません。拍子抜けするくらい平和で安全。そういう正確なイメージ、情報をちゃんと知ってほしい。そして一刻も早く、元気なライブハウスを取り戻したいです」
クリトリック・リスは3月以降も全国のライブハウスを回り、ステージに立つ。スケジュールなどはクリトリック・リスのTwitterアカウント(@sugi_mu)や、予約フォーム(https://ws.formzu.net/fgen/S117923/)で確認できる。
(まいどなニュース・黒川 裕生)