伝説的プロデューサー・奥山和由は韓国映画『パラサイト』の受賞をどう見たか

ビートたけしを映画監督としてデビューさせるなど、邦画斜陽期の松竹専務時代にただ一人アグレッシブな映画を生み出し続けていた伝説的プロデューサー・奥山和由氏(65)。現在は吉本興業に籍を置いて映画製作を担い、村上虹郎主演の『銃』、樹木希林さんの遺作となった『エリカ38』など骨太な作品や話題作を手掛けている。

昨年には奥山氏のこれまでのキャリアを振り返ったインタビュー集「黙示録 映画プロデューサー・奥山和由の天国と地獄」も刊行され、話題になった。4月10日には大林宣彦監督(82)と初めてタッグを組んだ3時間の超大作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』が公開される。

今年の第92回アカデミー賞で映画『パラサイト 半地下の家族』が、アジア映画として初めて作品賞を獲得し、世界的に大きな注目を集めた。同じアジアに住む映画人の一人として奥山氏はこの快挙をどのように見たのか。そこからは現在の日本映画界が抱える問題も浮かび上がってきた。

奥山氏は今回の快挙について「欧米主義を撤廃してアジア圏の作品にも目を向けようというアカデミー会員たちの意識の変化、ポン・ジュノ監督のNetflixに対する貢献、その才能に対するリスペクト、ポン監督勢のアメリカ映画界に食い込もうとする勢い。今回の受賞はいくつもの要素がクロスオーバーして偶然にも獲れたものだと思う」と分析する。

『パラサイト』の受賞は、日本映画界にとっての“ワールドワイド”という価値基準を明確に示した好事例として大きな意味を持つという。「今回の受賞が素晴らしいのは、日本の映画人として目指すべきなのはアメリカのアカデミー賞でしょう?と言えるようになったことです。日本映画でいう世界とは、これまではカンヌ国際映画祭止まりでしたから。しかし『パラサイト』はパルムドールも受賞して、アカデミー賞も獲った。“ワールドワイド”な映画とは本来そういうものです」と確信を込める。

日本国内の“権威”ある映画祭の多さにも疑問を呈する。「僕が関係している京都国際映画祭も含めて、日本には様々な映画祭があります。お金を出してくれる人がいて、お祭り的に開くのであればいいのだけれど、ほとんどの国内の映画祭が自分たちは権威のある賞なんだと高いところから賞を授けることだけに邁進している。それでは新しい才能も生まれない」。

日本の映画作りの方式も、新しい才能を生み出しにくい状況を作っているようだ。「とある監督は、映画会社にオリジナルの企画を出そうとしたら『原作モノでなければ製作委員会を組めないし、リスクも分散できないからダメ』と断言されたそうです。それだと映画にする必要のない原作モノや人気アイドルを起用した映画ばかりが増えていく。利益が生まれるのは悪い事ではないけれど、アイドルのご機嫌を伺い、原作者も納得するような映画を撮らなければいけない中で、映画で己を解放したい!という気持ちを持つ人はなかなか出てこない」と警鐘を鳴らす。

そんな風潮のせいか「映画ではなくて“映画監督”というイスに憧れている人たちが多い」と寂しそうな奥山氏だが「三島有紀子監督の『RED』からは、映画に惚れて映画を作っているという気持ちが伝わってきました。映画としての演出をしっかりしている。映画に惚れて映画を作っている人間が少ない昨今にあって珍しい逸材」とプロデューサーとして対面する日を楽しみにしている。

現在最も集中して取り組んでいる企画は、映画『竜二』の監督であり主演を務めた金子正次さんの遺稿脚本『盆踊り』の映画化。『全裸監督』の武正晴監督がメガフォンを取る予定だ。「映画とは精子と卵子が合体して自然に生まれてくる生命体のようなもので、運命的です。僕も運命を感じ取って本能で映画を作りたいと思う。大林監督の『海辺の映画館-キネマの玉手箱』もまさに本能的作品。映画は恐ろしい生き物ですから、本能でやらないとダメなんです」。これからもより一層、映画という魔物に向き合っていく。世界を驚かせるものを生み出すために。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)

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