自粛期間、演奏家たちのリモートワークとは…演奏だけが仕事じゃないんです
新型コロナウイルスの影響で、あらゆる文化活動が自粛されてしまった。普段音楽を生業として活動している演奏家は、今や演奏会の予定もほとんど白紙になる。すると準備段階のリハーサルなどもなくなってしまい、普段とは違う生活リズムを強いられてしまう。しかし、「いつもは練習に追われて忙しいけれど、むしろ時間ができたからこんなことができる」と、芸術家さながらの発想力で工夫を凝らしている演奏家もいる。
■「バチ」の持ち方を見直す打楽器奏者
大阪のザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団の打楽器奏者、安永早絵子さん。オーケストラだけでなく、一人で演奏を行うソロ活動や、複数人でのアンサンブル、またレッスン指導など、その活動は多岐にわたる。「最後に本番があったのは、2月末。3月と4月の公演やレッスンは全てキャンセルです」と話す。
自宅で過ごす時間が増えたことで安永さんが目をつけたのは、演奏で使用する「バチ」のグリップ、つまり握り方の研究だ。グリップは奏者によって「癖」のようなものがあるため、それをすぐに変えることは難しいことだという。しかし握り方によって、発する音色や、演奏するテクニックも変わってくるそうだ。
「今までは、仕事の曲を練習することに時間を使い、基本的なグリップを見直す余裕がありませんでした。でも今はじっくりとグリップの研究に取り組んでいます。いつか演奏活動が再開したときに、活用できますように」
■吹奏楽部員にぴったり!トレーニングアイテムを開発
同じくザ・カレッジオペラハウス管弦楽団のホルン奏者、西陽子さんは、普段はオーケストラ活動だけでなく、中高生の吹奏楽部の外部講師も務めている。
「今は休校中なので、部活はお休みです。家では楽器を吹けない生徒のために、気軽に遊び心をもってできるトレーニングアイテムを開発したり、演奏家仲間と情報共有したりしています」
管楽器を吹くとき、人間は多くの肺活量を必要とする。そのため吹くだけの練習のみならず、自分に合った肺活量を増やすトレーニングをする演奏家が多い。
数あるアイテムと練習方法の中で西さんがおすすめするのは、「Enjoy ブレトレ!」。チラシなどの紙で作った風車を、折れストローの節の短い部分にはめて完成。折れストローから息を流し、風車を回す。音を長く伸ばす「ロングトーン」での息の使い方を学ぶ、練習方法の一つだ。
「このアイテムでトレーニングを行う上で重要なのは、風車が飛んでいかないように、強く息を吹きかけてはいけない、ということ。細く長く、息を流すことが重要。そうすることで楽器を吹く上で必要な要素を蓄えられるんです」
■自宅で動画編集を行うホルン奏者
日本センチュリー交響楽団のホルン奏者を務める三村総撤さん。多くの演奏予定がなくなってしまった今、三村さんはYouTubeでの動画配信に力を入れている。動画内では、ホルンの片付け方や手入れ方法など、演奏だけでない有益な情報の発信を行っている。
「吹奏楽部でホルンを吹いている中高生の皆さん、またホルンやオーケストラ、音楽を愛好している方などがターゲットです。ホルンの片付け方や手入れ方法など、様々な有益な情報の発信を行っています」
三村さんが動画編集に使っているのはiPhoneに標準搭載されている「iMovie」。「無料の割に多機能で、直感的かつ手軽に使えるため、愛用しています」と話す。
「今は新型コロナウイルスの影響で積極的に活動できないホルン吹きの皆さんのために、練習に活用できたり、一人でも演奏を楽しめたりできるような動画をお届けできればと思っています。他にも、さまざまなメロディを独自にアレンジし、ホルンで演奏する動画も。どんな方が視聴しても楽しめるようなコンテンツを作っていきたいです」
演奏家は「楽器を練習する」「本番で演奏する」だけが仕事ではなく、日々の研究や鍛錬があってこそ日の目を浴びる。自宅でしかできない新しい発想が、アフターコロナの音楽業界に新しい風を取り込むことができるのかもしれない。
(まいどなニュース特約・桑田 萌)