係留用ワイヤーを引きずり放浪していた琉球犬の血を引くフィガロ君 元レスリング世界女王の家族になる

 琉球犬の血を引くフィガロ君は、切れた係留用のワイヤーを引きずって歩いていたところを保護され、沖縄県動物愛護管理センターに収容されました。誰かに飼われていたはずですが、収容期限が来てもお迎えはなく、新しい家族を求めて大阪にやって来ました。昨年3月のことです。

 フィガロ君の里親探しをしたのは、沖縄から犬を引き取り、関西を中心に譲渡につなげている個人ボランティア『Ycdなんくる倶楽部』の田中奈緒子さんと預かりボランティアの皆さん。里親さんが見つかるまでの期間は犬それぞれですが、フィガロ君は約1年掛かったと言います。愛らしい子なのですが、新しい環境に慣れるのに時間を要するタイプで、譲渡会でうまくアピールできなかったのだとか。

「知らない場所に行くと、興奮してはっちゃけるか、逆に固まってしまうか…。しかも、それを大袈裟に表現するタイプなので、譲渡会でなかなかいいところを見せられなかったんです」(田中さん)

 そんなフィガロ君を家族に迎えたのは、兵庫・西宮市に住む坂本涼子さん。名前だけでピンと来た人は、かなりの“レスリング通”と言えるでしょう。坂本さんは日本女子レスリング界の第一人者で、全日本選手権では1987年の第1回大会から7連覇。96年にも優勝しています。また、世界選手権でも4度メダルを獲得し、92年には世界女王にもなった実力者なのです。現在は兵庫県内にある私立中学・高校で女子レスリング部の監督を務め、その指導を受けたいと県外から集まった部員数名が、坂本家で下宿生活を送っています。

 坂本さんは飼っていたトイプードルのトイ君を今年1月に18歳で亡くしました。

「つらくてつらくて、休みごとに保護犬カフェを回って犬をなでていました。トイが生きているときから、次に迎えるなら保護犬をと思っていましたし、ご縁があれば迎えたいと考えるようになったんです」(坂本さん)

 カフェ巡りと並行して里親募集サイトなどを見ていると、1匹の琉球MIXが目に留まりました。実際に会いにも行きましたが、とても怖がりで咬むこともあるため、「下宿生がいる家には向かない」と言われたそうです。

「琉球犬や琉球MIXがいいと思っていたわけではないのですが、その子に会ってから気になり始めて。トイとは違うキャラの子が良かったのもあって、琉球犬で検索していたらフィガロに出会ったんです」(坂本さん)

 田中さんに連絡を取り、公園で待ち合わせ。外で見るフィガロ君は“ご機嫌”で、リードを持たせてもらうと「力強くてカッコよかった」(坂本さん)そうです。でも、田中さんの家で見たフィガロ君は、部屋の隅でおとなしくしっぽをパタパタ振っているだけ。そのギャップも魅力だったようで、家族になると決めました。

 家に来て3日間はクレートから出てこなかったというフィガロ君。ごはんも坂本さんが見ていないときにこっそり食べていたそうです。それでも困らせることはほとんどなく、下宿生たちとも仲良くやっているとか。

「今はコロナの影響でみんな帰省しているのですが、うちにいるときは散歩に連れて行ってくれたり、一緒に出掛けたり、かわいがってくれていました。親元を離れてさみしいのか、フィガロにべったりの子もいましたね。田中さんが『怒ることを知らないワンコ』だと言っていましたけど、本当にその通りで、うちにはピッタリでした。威嚇したり咬んだりしたら、もう飼えなくなるので」(坂本さん)

 1年たつとメンバーが変わる家族構成はちょっと特殊ですが、だからこそ、坂本さんは田中さんから譲り受けてよかったと話します。

「保護犬カフェにもかわいい子はいたのですが、お店と家では様子が違うかもしれない。その点、フィガロは家庭で育ててもらっていて、キャラクターも良く分かっている方にお話を聞くことができたので、安心して迎えることができました」(坂本さん)

 ペットとの出会いの場はいろいろあります。一度家族になってから「こんなはずでは…」とならないように、選択肢の幅を広げることが大切かもしれません。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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