実は親も見られてる?体がグネグネ、すぐ横になりたがる…「子の姿勢の悪さ」の3つの要因と対処法
私は、全国の保育園や幼稚園などで、幼児の運動発達に関する講演を行っています。色々とご希望いただくテーマの中で、「姿勢が悪い子どもが多いので改善方法について教えてほしい」という内容は最も多いテーマの一つです。
その中でも、特に椅子に座る、床の上に座るといった座る姿勢のお悩みが多い傾向があります。具体的には、テーブルに頬杖をついて座る、椅子に斜め向きに座るなど向きがズレた座り方になる、長い時間座っていると体が丸くなってくる、などのお悩みです。保護者の方だけでなく、保育園などにおいても、子どもの姿勢の悪さについては、課題を感じておられることを実感します。
そこで今回は、子どもの姿勢が崩れる3つの理由と、それらを改善する日常でできる簡単な取り組み方法についてご紹介します。
◆姿勢が悪い理由と対処法
姿勢が悪くなる(崩れる)原因は、様々ですが、ここでは最も多い3つの原因について解説します。その3つとは、体幹筋の持久力の弱さ習慣体幹筋の低緊張-です。
体幹筋の持久力強化には遊びや「お手伝い」を
体幹筋とは、腹筋と背筋で構成される筋肉の総称です。この体幹筋が弱いと、背中をしっかり伸ばして保つことが難しくなり、猫背などの原因にもなってしまいます。
筋肉には、瞬時に出せる力(瞬発力。ジャンプなど)と、弱いながらも長時間働く力(持久力。ウォーキングなど)がありますが、姿勢保持に必要なのは「持久力」です。
幼児や小学生などのお子さんでは、遊びの中で体幹筋の強化や持久力の向上を目指しましょう。例えば、おしくらまんじゅう、手押し車、ケンケンパ、などの昔遊びは動きの中にその要素が盛り込まれています。また、ジャングルジムやブランコ、うんてい、などの遊具を使った遊びも有効です。
もう一つ、おすすめなのが「お手伝い」です。雑巾がけ、お風呂掃除、洗濯物干し、などは意外に持久力を使うのです。嫌々にならないよう、できるだけ楽しみながらできるように、「時間を競う」「競争する」などゲーム要素を取り入れると、継続して取り組みやすくなるでしょう。
「習慣」付けのポイントは「親自身の姿勢」
姿勢が崩れる2つ目の理由として「姿勢を正しく保つという習慣がない」ことが挙げられます。ソファーに崩れた姿勢で座る、椅子にもたれた状態で座る、すぐに寝転がる、などの生活だと、日常の中で、姿勢を正しく保つ習慣は育たないでしょう。
なぜ習慣が大切になるかというと、人の活動は繰り返すことで、「無意識でもできるようになるから」です。例えば、歯を磨く行為では、「どのように磨くか」を考えなくても(例えば他のことを考えながらでも)無意識に行えますよね。これは、毎日行う活動なので、「体が勝手に覚えている」からに他なりません。
正しい姿勢を保つということも「体が覚える(正確には脳が覚える、ですが)」ことができれば、意識しなくてもいつでも良い姿勢が保てるようになるのです。この習慣をつけるためには、「お手本を見せる」ことと「お手本を真似させていく」ことが有効です。「見様見真似」といいますが、子どもは真似をすることで学んでいきます。親の口ぶりや仕草を真似する場面を見ることもあると思いますが、これらは子どもが無意識に真似をしている証拠です。
例えば、親が子どもの正面に座り、正しい姿勢で活動(例えば食事動作)する姿をさりげなく見せるだけでも効果があります。また、正しい姿勢を習慣付けるために、書道や武道などの習い事をするのも効果的でしょう。
これらの活動は、「姿勢を正す」ことから始まるため、良い姿勢を取ることを繰り返し実践する中で、「体が良い姿勢を、無意識に覚えていく」ことにつながるからです。
「低緊張」の場合、子どもを叱るのはNG→環境改善を
「低緊張」とは、筋肉の張りが弱い(低い)状態を指します。筋肉は、安静にしていても、ある程度の張りが維持されているのですが、「どの程度の張り状態でいるか」ということは、脳からの指令によって決まります。例えば、平均的な張り具合を「100」とすると、脳から「120」と指令が出ている人は、過緊張(筋肉の張りが強い)状態になります。「80」と脳から指令が出ている人は低緊張(筋肉の張りが弱い)状態になります。
この張り状態は、無意識に脳がコントロールしているため、自分の気持ちや意志の強さなどは関係しません。その人の「個性」だと言えます。こういった理由から、低緊張タイプのお子さんの場合、筋力強化や習慣付けだけで姿勢の崩れを改善させることは難しいでしょう。
そのため、対処方法としては、運動を取り組ませる以上に、椅子や生活の環境を変えてあげて、姿勢が崩れにくい環境を整えてあげることが大切です。
具体的には、座面に滑り止めを敷いてあげることでお尻がズレないようにする、体に合った椅子を選ぶ(足を床についた状態で、足首・膝・股関節がそれぞれ直角になる位置になるのが理想的な椅子のサイズです)などの取り組みを行いましょう。
なお環境設定の取り組みについては、どんなお子さん(上記のタイプのお子さん)にも効果的ですので、ぜひ参考にしてみてください。
また、低緊張タイプのお子さんの中には、自閉症スペクトラムなどの発達障害を持つお子さんも一定数おられます。こういったお子さんの場合は、自分に対する自信のなさから、運動に対する苦手意識を持っている子が多くいます。
そのため、「(苦手な)運動を頑張りなさい」と強制することは、さらに運動嫌いになるだけでなく、「自分にはできない」「自分はダメな人間なんだ」と今以上に自己肯定感を下げてしまうリスクがありますので、できることを認めつつ、スモールステップで取り組めるような声掛けや実践が大切になります。
◆まとめ
・子どもの姿勢が悪い要因は、大きく分けて3つあります。
体幹筋の持久力の弱さによるもの
習慣によるもの
低緊張によるもの
・改善に向けての取り組み方法は次の通りです。
昔ながらの外遊びや、遊具遊び、お手伝いなどの活動を通して体幹筋の持久力を高める
良い姿勢を自然に見て学べるように、大人が見本を見せていく。書道や武道など、姿勢を正す習慣のある習い事をする。
椅子に滑り止めを敷いたり、椅子の高さを体に合わせてあげるなど、環境設定を行う。
・低緊張のお子さんの中には、自閉症スペクトラムなど発達特性のあるお子さんもおられます。苦手意識のある運動を無理やり取り組ませることは、自己肯定感を下げる要因になってしまうため、スモールステップでの取り組みができるような配慮が必要となります。
◆西村 猛 脱公務員。株式会社ILLUMINATE代表取締役。子育て支援の事業所を複数経営。幼児期の発達が専門の理学療法士。子どもと姿勢研究所代表。「日本で一番、保育士さんを応援する理学療法士」として全国各地の保育園で幼児の運動発達に関する講義を実践中。キャッチコピーは「特技ものまね、趣味立ち話」。うんちくんグッズ集めに余念がない。