「フェイスシールドはずせ」、メーカーが派遣社員に…法的問題を平松まゆき弁護士解説
まいどなニュースにフェイスシールドを巡る相談が寄せられた。「派遣社員ですが、メーカー側から『フェイスシールドを外さなければ勤務解除(人を替える)する』と個人と派遣会社に圧力を掛けてきました」というもの。相談主の派遣先店舗はショッピングモール内にあり、メーカーは「フェイスシールドは店舗やモールで浸透していない」と主張。店舗やモールからは苦情はなく、客からは好評でさえあるという。法的問題点を元アイドルの平松まゆき弁護士にQ&A方式で解説してもらった。
Q このメーカーの行為は法的にどのような問題がありますか?
A 雇用関係において使用者には、労働者の生命、身体等の安全確保に配慮する安全配慮義務(労働契約法5条)が課せられていますが、この義務は、判例上、派遣労働者と直接の雇用関係がない派遣先にも発生すると考えられています。
ご相談のケースについては、不特定多数の来客に接する現場ですから、フェイスシールド着用禁止は安全配慮義務違反の疑いがあると考えます。接客の現場で、「笑顔が見えづらい」「表情が分からない」ことなどから、マスク着用を禁じられたとの話は聞きますが、フェイスシールドであれば笑顔・表情の問題はありません。むしろお客様にも好評だということですから「浸透していない」との説明には合理性を見出せません。
なお、仮にご相談がマスク禁止というケースだったとしても、感染拡大の第2波が懸念される昨今ですから、「笑顔が見えづらい」「表情が分からない」といった理由にも合理性はないと考えます。
Q パワハラにはあたりませんか?
A 派遣労働者にも適用があるパワーハラスメント防止法(中小企業の場合2022年から施行)によれば、パワハラの定義は、1.優越的な関係を背景とした言動、2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの、3.労働者の就業環境が害されるもの(精神的・身体的苦痛を与える言動) との要件を満たすものとなっています。類型としては、「身体的・精神的攻撃」「人間関係からの切り離し」「個(プライバシー)侵害」のほか、業務遂行を著しく困難にさせる「過大・過少な要求」が挙げられます。
ご相談のケースでは、身体・生命の安全が脅されつつ(少なくとも精神的にそうした負担を感じるでしょう)過大な業務遂行を強いるものといえそうですから、パワーハラスメント防止法にも違反の疑いがあります。
Q 安全配慮義務違反やパワーハラスメント防止法違反による罰則はありますか?
A いずれも罰則がなく問題視されているところではあります。ただし、派遣先の安全義務違反が原因で派遣労働者がコロナに感染してしまったのであれば民法上の損害賠償を請求できますし、パワーハラスメント防止法違反の場合は、最終的には企業名が公表されるに至ります。「ブラック企業」の烙印というわけです。
Q 派遣先の指示に従わないことを理由にもう来なくていいと言われましたが、まだ契約期間中です。こんなこと許されるのでしょうか?
A 一般に正社員のような雇用形態を無期契約、派遣や契約社員のような雇用形態を有期契約といいますが、有期契約の場合、無期契約よりも契約の解除(解雇)条件は厳しく判断されます(労働契約法17条1項)。有期=期間満了後には契約の不更新(雇止め)のおそれがあるからこそ、せめて約束した期間はまっとうすべきと解されるからです。要するに派遣や契約社員の方が、正社員よりもクビにしにくいのです。世間では逆のように誤解されていることがありますが。
ただし、ここで注意が必要なのは直接的な契約の解除(解雇)を行うのは、派遣先ではなく派遣元であるということです。したがってまずは派遣元に派遣先に対する交渉を依頼し、少なくとも派遣元から支払われる期間満了までの賃金を確保しつつ、場合によっては別の派遣先を提案してもらうなどの雇用安定措置を求めるべきです。
一方、派遣元までもが派遣先に便乗して期間中に契約の解除(解雇)を行った場合には、休業手当を確保しつつ、不当解雇として違法性を争っていくことになります。
Q どのような人、機関に相談したらいいですか?
A まずは、派遣元の担当者に交渉をお願いすべきですがそれがかなわない場合、労働組合から団体交渉を申し入れてもらい、その交渉を通じて、職場の衛生・労働環境の改善を求めることができます。職場に労働組合がない場合、一人でも加入できる外部の労働組合がありますので、そこから派遣先に交渉を申し入れてみて下さい。
それでも善処されない場合には、労働問題に詳しい弁護士等の専門家に相談されることをお勧めします。現在、コロナ関連の労働相談を無料で行っている事務所も増えていますので諦めずに相談窓口を探してください。
◆平松 まゆき 弁護士。大分県別府市出身。12歳のころ「東ハトオールレーズンプリンセスコンテスト」でグランプリを獲得し芸能界入り。17歳の時に「たかが恋よされど恋ね」で歌手デビュー。「世界ふしぎ発見!」のエンディング曲に。20歳で立教大学に入学。芸能活動をやめる。卒業後は一般企業に就職。2010年に名古屋大学法科大学院入学。15年司法試験合格。17年大分市で平松法律事務所開設。ハンセン病元患者家族国家賠償訴訟の原告弁護団の1人。