大阪の町工場から福を全国に! 関西のクリエイターが集結し、福呼びアクセサリーを開発

髪の毛よりも細い0.05ミリの刃先で掘られたアート作品のようなネックレスが、ものづくりの町・大阪府八尾市の小さな町工場で誕生した

台湾で、福が天から降ってくると言われる「上下逆さの福」をモチーフに、裏面には幸運を運ぶ天然石をデザイン。繊細な透かし彫りが織りなす表情は、まさにアート作品そのものだ。

商品名は「cocur fuku(コクール・福)」。製作したのは、「全国に福を届けたい!」という想いから集結した関西のクリエイター集団「福プロジェクト」だ。

■一つの試作品から動き出したプロジェクト

「福プロジェクト」の発足は今年4月。プラスチック成型品などの金型を彫る『赤坂金型彫刻所(八尾市)』代表・三代目赤坂兵之助さんの手元にあった、ある試作品から始まった。

2019年、八尾市は「八尾のものづくり技術を世界にアピールしよう!」と、台湾を舞台にしたプロダクトづくりを目指す「YAOYA PROJECT」を発足。赤坂さんも、「細かな造形を金属に彫る技術を見てもらいたい」とプロジェクトに参加した。そこで挑戦したのが、彫金アクセサリー。知人でフリーライターの平山靖子さんの協力を得ながら、舞台となる台湾の地にも自ら足を運び、街を彩る特徴的な窓枠やタイルなどからデザインの着想を得た。

しかし、金型職人である赤坂さんにとって、アクセサリー制作は畑違いの土俵。デザインの組み立てに苦戦しているうちに、プロジェクト1期の期限である3月末を迎えてしまった。

3月末といえば、世界がコロナ禍の大渦に飲み込まれ始めた頃。同プロジェクトの2期開始予定も一旦白紙となり、赤坂さんの手元には、アクセサリーの試作品だけが残った。

そしてコロナの渦は、赤坂さんの工場にも襲いかかる。企業間取引のみで運営していた赤坂金型彫刻所の売上は、前年比75%減まで急減。

でも、苦しんでいるのは自分だけではない。日本中の町工場、いや、世界が不安に苦しんでいる--。

そう考えた赤坂さんは、金型職人である自分にできることはないか、と知人のWebデザイナー、田川恵子さんに相談。すると「試作品をブラッシュアップして、全国に福を運ぶアクセサリーを届けたらどうか」とアドバイスされた。

この一言から、福プロジェクトが誕生。とはいえ、職人である赤坂さんには、アクセサリーデザインやブランディングといったスキルが足りない。そこで田川さんが旗振り役となり、関西のクリエイター仲間を募集。想いに共感した大手広告代理店出身のクリエイティブディレクター・畑美治さん、アクセサリープランナーの川野輪陽子さんがプロジェクトに参加し、サポートとしてフリーライターの平山さんも加入した。

田川さんはプロジェクトマネージャーとして動きながらWebサイト等を制作、川野輪さんはアクセサリーの素材や天然石など商品プランをアドバイスした。平山さんはHP等インターネット販促のライティングを、畑さんはロゴ作成やパンフレットのコピーライティング等、ブランドの世界観を作り上げた。唯一足りなかったデザイナーは、平山さんの紹介で東京のデザイナーからデザインを買い取ることに。販売経路は、クラウドファンディング「キャンプファイヤー」を活用。6月19日から販売を開始した。

■芸術レベルのクオリティ

「全国に福を届けたい」という関西クリエイターたちの力によって完成した「cocur fuku(コクール・福)」。最大の魅力は、その繊細な彫刻だ。赤坂金型彫刻所の初代・赤坂兵之助氏が確立した「赤坂式半月彫刻法」と言われる繊細な金型製法技術と、最新鋭のコンピュータ制御による加工システムを融合して彫り込まれているが、特筆すべきは、顕微鏡でないと見えないほど小さな刃物を手づくりできるその技術。刃物先端の細さは、なんと0.05ミリ。世界でも希少とされるこの技術が、見とれるほど滑らかで細やかな造形を作り出している。

素材は、飛行機などに使用されるジュラルミンを採用。酸化に強く、軽くて丈夫という特徴を持ち、ニッケルを含まないのでアレルギーも起こしにくい。裏面に施される天然石は「運」「財」「縁」の中から希望を伝えれば、適した石をプロジェクトサイドがセレクトして加工する。種類は大・中・小の3種類。価格は48000円(税別)。クラウドファンディングで得た資金は、赤坂金型彫刻所の経営維持のほか、赤坂さんの夢である「ものづくりの学校」の資金に充てる予定だ。

「僕たちはそろそろ、明るい未来に向けて歩き出さなくてはいけない。福が降ってくる軽やかなアクセサリーで、心も軽くなってもらえたら」と赤坂さん。

田川さんは「赤坂式半月彫刻法は、仕事中の事故で左手を失った赤坂さんの祖父が、自ら義肢を作り上げて生み出した唯一無二の技術です。その継承者である赤坂さんの手元に、『福』という試作品が残ったのも、きっと何かの縁。赤坂さんの技術が未来に紡がれつつ、一人でも多くの人に福が降ってくるように願っています」と力を込める。

大阪の小さな町工場から生まれた、世界に誇れる芸術品のようなアクセサリー。その小さなネックレスには、元気で前向きな関西クリエイターたちの、明るい未来への願いが込められている。

(まいどなニュース特約・鶴野 ひろみ)

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