石橋蓮司&桃井かおりが明かす、名優・原田芳雄さんの素顔「面倒見がいい」「伝説には没しない」
俳優の石橋蓮司(78)が18年ぶりに主演する、映画『一度も撃ってません』(7月3日公開)。石橋と共演者の桃井かおり(69)は「原田芳雄がこの映画の影のプロデューサーだ」と口をそろえる。映画『ツィゴイネルワイゼン』『大鹿村騒動記』などで知られる俳優の原田芳雄さんが2011年に亡くなって、来年で10年。生前親交の深かった石橋と桃井が稀代の名優の横顔を改めて偲ぶ。
思い出深いのは、毎年年末に原田邸で行われる餅つき大会。石橋は「俺たちが若い頃から何十年もやっていたもの。昔は独立プロのスタッフや役者、音楽家、ボクサーなどが自然発生的に集まってのゴッタ煮状態でした」と回想する。語り合ったし殴り合った。「みんなで餅を喰って憂さを晴らす感じ。『俺たちはなぜ映画を撮るんだ!?』とか言ってね。それがあって『明日も頑張ろう!』となれた」と荒々しくも愛おしい場所だった。
桃井も「キャスティングが行われたり、映画のアイデアが生れたり。“伝統の穴倉”のような場所でした」と実感を込める。参加条件は「魂をお金で売り飛ばしてない人」だった。「上っ面だけの俳優がやって来て『握手してください!』と芳雄に言ったら『お前は俺と握手できるような人間なのか!?』と門前払いを受けたこともありました。札束で頬っぺたを叩かれない奴らの出会いの場だったし、お金で頬っぺたを叩かれないというのは俳優として重要なことでした」と覚悟を決めた人材の宝庫でもあった。
石橋は原田さんの面倒見のいい性格について「役者は人が嫌いな生き物だけれど、芳雄は人が好きでした。受け入れない奴は受け入れないけれど、一度懐に入ると非常に面倒見がいい。決して自分をひけらかすようなこともない。そこに心情的に共有できる人種が大勢集まって、彼を中心とした村的なものが出来上がった。シャーマンのような人でした」と分析する。
桃井も「哲学者というのかな?つまらない映画に出るよりも、芳雄と会話をしていた方が役者としての勉強になった。時代によって役者たちの中心的人物になる人はいますが、その中でも芳雄はとても不思議な感覚の持ち主。ただの伝説には没しない何かがある人でした」と懐かしむ。
映画『一度も撃ってません』は、そんな原田さんの七回忌の席で生まれた作品だ。原田さんゆかりの俳優・スタッフが、作りたいものを作るべくして集結した。主演の石橋が「この映画には芳雄の雰囲気というか、彼の匂いが漂っています」と親愛の情を口にすると、桃井も「だから私たちは原田芳雄プロデュース・石橋蓮司主演映画と呼んでいるんです」と解説。原田さんの意思を継いだ同志たちの手によって、“伝説の穴倉”の伝統は今も生きている。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)