医療現場に光射す「空の写真」 病院に芸術を取り入れる「ホスピタルアート」って

 懸命に働く医療従事者や患者さんのために、「空」を見せたい…。耳原総合病院(大阪府堺市)に、たくさんの「空の写真」が廊下に飾られた。新型コロナウイルス感染拡大により、緊張感が漂う病院職員、面会制限で辛い思いを抱える患者さん。そんな病院内に、外からたくさんの光が集められている。

「院長から『こんなときやからこそ、何とかしてえや』と背中を押されたことがきっかけでした。そこからたくさんの方から空の写真を募り、飾り始めたんです」。そう語るのは、同院のアートディレクター、室野愛子さん。

 耳原総合病院には、空の写真だけでなく、ここに集う人々が思わず癒されるような仕掛けがある。かわいい鳥や、ハート型の造形作品。優しい雰囲気をもつ作品たちが、院内の空気を柔らかくする。

 それらは、医療現場に美術や音楽などを導入する「ホスピタルアート」によるもの。同院では、国内有数の規模でホスピタルアートの取り組みを行っている。

 アートディレクターの室野愛子さんは、同院のホスピタルアートの取り組みについてこう話す。

「耳原のホスピタルアートの大きな特徴は、表現者が患者さんや病院職員であること。外部のアーティストだけでなく、病院の中にいる人間もアートを作り出していくんです」

 有名アーティストによる作品が飾られている病院は他にもあるが、「ここに訪れる人々の琴線に触れる作品は、病院内の人間だからこそ作れるんです」という。

 2015年に行われた「虹色プロジェクト」は、代表例のひとつ。病院全体を「絵本」に見立て、各階のエレベーターホールに鳥の絵が描かれた。作品づくりに先立ち、職員と患者さんと地域住民によるワークショップが開かれ、「どんな鳥を描きたいか」とアイデアが交わされたそう。実際に職員や患者さんも手を加えて、作品は完成した。

「こうして言葉を交わすことこそが『表現活動』。その目的は、最終的に職員間のより良い組織づくり、患者さんへの心の癒しや病状の改善を応援すること。そのための活動を、私たちアートディレクターはバックアップしているんです」

 「アート」を用いることで、より良い医療のアプローチや病院の新しいカタチを作り出す。まさに今、新型コロナウイルスと最前線で戦う医療現場には、そんな緊張をほぐすアートが必要なのかもしれない。

(まいどなニュース特約・桑田 萌)

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