お向かいさんちにできたツバメの巣 巣立ちを見届けて…なんだか自分も子育てした気分

駅前のアーケードを見上げ、スマホでアーケードの裏側写真を撮っている変なおばさんは、私です。私はツバメウォッチャーです。

ツバメは、春になると遠くインドネシアやベトナムから約3000キロの旅をして日本にやって来ます。鶏の卵より軽い体重で、何日もかかって海を渡り、やってきます。

何故渡りをするのか?本当のところはわかっていません。ツバメにはこのような過酷なイベントがあるためか、7~8割は1歳までに亡くなるそうです。つまり、日本で初夏に巣立った若鳥のうち、来年も日本に戻って来れるツバメは、10羽のうち2~3羽ということです。インドネシアやベトナムの漁師さんの網には、ツバメの死骸がたくさん引っかかるそうです。切ないです。

そんなツバメは、短命だからこそいつでも全力で頑張っていて、にもかかわらずとても洗練されたスマートなフォルムの身体で…彼らを見ていると自分も頑張れる気がします。

私は電車通勤しております。この季節、駅のアーケード裏にはツバメの巣がたくさんあります。帰り道にアーケードを見上げて、それぞれの巣の動向をチェックするのが日課になっています。

ある日、もうすぐ巣立って空っぽになってしまうはずの巣をチェックしに、改札を出て急いでその巣の下まで走りました。すると、大きく育ったヒナが、まだ巣の中で並んでいました。今日はまだ巣立ちしなかったみたい…そう思って見上げていると、先程、電車で同じコンパートメントに座っていた男子高校生も、同じ巣を見上げているのに気づきました。

「まだ巣立たなかったね。ツバメ好きなの?」そうおばさんに話しかけられて、たじろぐ男子高校生でした。

   ◇   ◇

私は、12年前にここ滋賀県近江八幡市に越してきました。古い街並みなのでツバメが多く、その姿に魅了されました。

いつか自分のウチにもツバメが巣を作ってくれないかなぁ…私はずっとお祈りしていました。

しかし、どんなところに巣を作るのかを注意深く観察した結果、構造上、私の家にはどうしても作ってくれなさそうでした。

そんなことを思って12年経ち、しかし、なんと!今年はお向かいさんの入り口に、ツバメが巣をつくり始めました!

お向かいさんちには、ツバメの巣の残骸があり、毎年何組かのツバメが物件を下見に来ていたのですが、この12年間、実際に抱卵したツガイは一組もいませんでした。お向かいのおばちゃんも12年前に「なんや最近はちっともヒナが孵らへんねん」とぼやいていました。

それから12年、お向かいのおばちゃんはこの春に、お亡くなりになりました。それからすぐに、ツバメの巣作りが始まりました。このツバメは、あのおばちゃんの生まれ変わりやな…そう思いました。

私は毎日巣を見上げて写真を撮っていたので、ある日、隣のおっちゃんに不思議そうに、「何してんの?」とたずねられました。私の行動があまりにも不審だったようです。

およそ2週間後に、無事にヒナが孵りました。4羽いるようでした。

カラスがツバメの巣を狙うのは、孵化したヒナがいるときです。卵よりヒナの方が美味しいからなのでしょうか?いろいろ調べて考えて、カラス避けに雨樋をつたって麻紐を二本張りました。ツバメのお母さんは最初、麻紐をよけて巣にゴールするのに3回練習が必要でしたが、その後はノーミスで一発ゴールを決めていました。

そんなこんなで、この梅雨の長雨もあり、なかなか巣立ちが出来ないヒナ達でしたが、昨日ようやく、夜も巣に帰って来なくなりました。今朝、私の家の上空高くを数羽のツバメが旋回していました。きっとあの子達です。なんだか自分が子育てした気分になりました。とりあえずは巣立ちまで出来て良かった!来年も来てね!そう祈りました。

ちなみに、巣立ちした若鳥とその両親は、巣から離れると夜は湖に群生する葦原の葦(ヨシ)につかまって寝ます。湖東中のツバメが集まって「ねぐら」をつくるのです。

(獣医師・小宮 みぎわ)

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