原因は恥と世間体か?…“セクハラ疑惑”で死を選んだソウル市長 韓国国内の反応は様々

 雨のソウルに衝撃が走った。韓国・聯合通信などによると9日夜に行方不明と伝えられたソウル市の朴元淳(パク・ウォンスン)市長(64)が10日未明、ソウル北部の山中で遺体となって発見された。自殺とみられ、8日に元秘書の女性職員からセクハラで告訴されたことが深く関係しているようだが、次期大統領候補はなぜ、死を選んだのか。

 突然の悲報に韓国の首都・ソウルは早朝から騒然とした。現地メディアによると、事件の流れはこうだ。9日午後5時ごろに市長の娘から「父が遺言のような言葉を残して家を出ていった。携帯電話の電源が切れている」と捜索願が出された。

 警察は最後に携帯電話の電波が確認された場所を重点的に700人体制で深夜まで捜索。警察犬やドローンなどを使って、通報から7~8時間後の10日未明、遺体発見に至った。8日までは市長としての業務をこなしていたという。

 その後、公開された遺言状では「全ての方に申し訳ない。人生をともに歩んでくれたすべての方に感謝する。苦痛を与えることしかできなかった家族には、ずっと悪かったと思っている」と謝罪や感謝がつづられ、遺骨については「火葬して両親の墓にまいてほしい」とも記されていた。出棺は13日予定。

 パク市長は人権弁護士として知られ、2011年にソウル市長に当選、現在3期目。自他ともに認める「フェミニスト」として通っており、1998年に「今年の女性運動賞」を受賞。06年にはアジアのノーベル賞「マグサイサイ賞」にも輝くなど国際的にも評価されていた。

 大都市ソウルのトップとあって、韓国国内では文在寅(ムン・ジェイン)大統領に次ぐ実質No.2の実力者だったが、事件の背景にセクハラ疑惑があったことから失望する声や批判も相次いでいる。

 告訴状では、女性は朴氏から触られたり、不適切な内容のメッセージや写真を送られたとし「同じような立場の女性は他にもいる」と訴えているという。警察は10日に告訴状受理を認め、自殺の動機を慎重に調べていく。ショッキングな内容に韓国メディアは当然トップニュースで扱かった。

 9日深夜に「ソウルの市長が行方不明」とメッセージを送ってくれたソウル市在住の知人は遺体で発見されたことに「尊敬している政治家なので大変ショックでした。イメージは庶民的でまじめな人。人権弁護士出身で女性とか貧しい人たちのために活動して来たので信じられない。コロナ対策でも成果を上げていた」と残念がった。その一方で自殺の動機について「そんな人がセクハラで訴えられたので罪悪感が強かったのでしょう。恥と世間体。自身のきれいなイメージに耐えられなかったのでは」とも話した。

 もう1人、同じくソウル市在住の友人は意外に淡々としたものだった。「韓国の政治家はお金の問題で裁かれたり、自殺に追い込まれたりしますが、今回の原因は秘書へのセクハラで訴えられたためです。市長を長年やっていたので、それなりの知名度はありましたが、ソウル市民の反応も様々です。ア然としている人もいれば、セクハラだからしょうがない、という声も多かった」と教えてくれた。

 今後は市長の死によって告訴も公訴権なしになる。「自殺するほどマスコミに攻められる可能性が高かったのでしょうが、自殺したことで捜査は終了する。罠だったのかどうか、事実がハッキリしないまま終わってしまった」。フェミニストがセクハラで自らの命を絶つ。事件の真相は謎に包まれたままとなった。

(まいどなニュース特約・山本 智行)

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