手術をあきらめた子猫 余命わずか覚悟も獣医師が「化け猫」と驚いた奇跡の回復、今は2度目を期待
2018年6月末、兵庫・宝塚市のある地域から野良猫の相談が入った。子猫が3匹現れ、1匹は怪我をしているという。足を引きずっている子猫は、兄弟から逸れて行動しているようだ。当時、私たちは7月のオープンを目指して猫の保護シェルターの準備段階であった。
まずは怪我をしている子猫の保護を急いだ。調べると近くの養護学校にも出入りしていることが分かった。職員曰く、よく足を引きずった真っ黒な子猫が現れるという。翌朝になって養護学校から「子猫が現れた」と連絡が入った。
大雨の中、子猫は校舎の階段を雨除けにしてじっとしていた。少し警戒していたが、簡単に保護することができた。とても可愛い生後3カ月ほどの黒猫。触るとグルグルと喉を鳴らしてくれた。腹の部分の毛が大きく抜け落ちており、引きずっている足も同じように毛が抜けている。近くの病院へ連れて行くと、足は骨折してしばらく経っていることが分かった。そしてその際、呼吸に少し違和感があると告げられた。
後日、地元で一番大きな病院へ連れて行った。診てもらうと「もしかすると横隔膜ヘルニアかな?」と言われた。横隔膜ヘルニアとは、何かしらの理由で横隔膜が裂け、本来肺から下にある臓器が裂けた横隔膜から肺に侵入する病気。レントゲンを撮ってもらうと、やはりそうだった。
片肺は侵入した臓器に圧迫され機能していなかった。もう片方も、ほぼ半分しか機能していない。横隔膜ヘルニアには先天性のものと、交通事故などによって穴があく後天性のものがあるが、足の骨折から、後天性である可能性が高いと考えられた。
このままでは、呼吸困難に陥り長くないという。生まれて3カ月程しか経っていないのに、あまりにも可哀想で号泣した。病院では、より設備の整った病院を紹介できると言われた。関西で一番設備が整っており、経験が豊富な病院とのこと。そこで紹介状を書いてもらって予約した。
生きて欲しいと願いを込めて「リヴ」と名付け、準備中の猫シェルターへ連れて帰った。施設はまだ電気が通っておらず、懐中電灯を照らして夜を過ごした。手術をすれば絶対に治ると信じて予約日を待った。
当日はCTを撮ってもらい、それをもとに担当の獣医師が状態を説明してくれた。すると、手術で治るという期待は大きく裏切られた。
病状は想像以上に酷かった。そのうえ事故から日数が経っているため、更に手術の成功率が低くなるという。麻酔に耐えられない可能性も高く、加えて手術時の仰向けの体制が肺を圧迫し、窒息する可能性も。成功したとしても、術後に肺に水が溜まることも考えられる。手術のハードルはとてつもなく高かった。
希望すれば手術できるが、病院側から勧めることはできないと告げられた。更には、2つある腎臓のうち1つが機能していないことも判明した。この日はすぐに回答できず、帰ることにした。
帰宅後、妻と話し合った。手術に失敗してすぐに亡くなってしまうよりも、短く限られた時間かもしれないが、沢山の愛情を注いで幸せを感じてもらいたい。私達は手術をしない選択をした。
その後はシェルターに泊まり続け、なるべくリヴと一緒に過ごした。するとリヴは、みるみる元気になっていった。気が付けば1カ月が経過。健康な猫と変わらないように見えた。そしてワクチン接種のため、紹介状を書いてもらった地元の病院に向かった。すると担当医師が驚いた顔でこう言った。
「ワクチンを打ちに来たということは元気になったということですか?」
経緯を説明すると、ただただ「凄いですね」と驚き、続けて「我々の間では、こういった稀に奇跡を起こす子を、化け猫と言っているんです」と笑いながら言った。リヴは医師の予想を覆した奇跡の化け猫だったのだ。
◇ ◇
保護してから2年が経過した。先日、微熱があって食欲も少し減っていたので病院へ連れて行った。体の成長と共に更に肺が圧迫されており、レントゲンを見た先生の見解では「回復は難しい」ということだった。これまであまりにも元気であったため、私たち夫婦は彼が天寿を全うすると思い込んでいた。一見すると元気な姿に戻った今でも、予断を許さない状態は続いている。それでも私達は、リヴの2度目の奇跡を信じている。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)