フローリストの創作活動を支える人気猫 うちの福招きねこ~西日本編vol.17
大分市府内町にあるフラワースタジオ「Alouette(アルエット)」。観葉植物やアンティーク家具などが飾られている店内からガラス越しに外を眺めて過ごし、道ゆく人たちの人気者なのが、茶トラの「きなこ」(オス、5歳)だ。飼い主でオーナー、フローリストの豊東(ぶんどう)剛さん(46)に話を聞いた。
■生後2カ月くらいの野良でした
きなことの出会いは、僕が独立して店を出して1年ほど経った2015年の梅雨時期。ようやく仕事が軌道に乗り出したころでした。幼いころから実家では保護した猫をたくさん飼っていたこともあり、自分の店を出して落ち着いたら猫を飼いたいなあとちょうど思っていたときだったんです。店の前に並べていた植木鉢の隙間あたりから子猫の鳴き声がしていたので気になっていたら、その数日後、きなこが店の出入口から中へ自分から入ってきたんですよ。まだ生後2カ月くらいの野良でした。
だけど、勝手に入ってきたわりには、撫でてあげようと思っても触らせてくれなくて怒るし、かといって、外へ出ていくかというと、扉を開けっぱなしにしていても出て行かず…。毎日食事を与え、トイレも置いていたので、居心地がよかったのか、そのまま居ついてしまったんです。来店した女性たちが「きゃー、可愛い」と騒いでも知らんぷり。「美意識高い系男子」といった感じで、「きなこ様」と呼ばれることもありました。
そんな感じで半年が過ぎました。体を触らせてくれないので、それも仕方ないかなと諦めてかけていました。でも、あるとき名前を呼んだら、僕の元に寄ってきて急に甘えてくるようになったんです。突然、何のきっかけもなくです。何があったの?と僕も目が点になってしまいました。それで病院へ連れていき、去勢手術や検査を受けることができました。
あるとき、「動物の気持ちがわかる」という方が店にやってきたことがありました。そこで、きなこがどうして僕の店に入ってきたのかと尋ねてみたんですよ。するとその方は、きなこは「安全だと思って入ってきた」と。あと、僕が仕事でいつも忙しいみたいだから、「代わりにここに居て、お客さんを引き寄せて助けてあげる」とも思っているとのことでした。本当かどうかはわかりませんが、それを聞いてとても嬉しかったのを覚えています。
僕の仕事は、花束やアレンジメントをつくったり、店舗や病院などの施設で植物や花の空間装飾をしたり。世話を引き受けた植物の水やりやメンテナンスを定期的に巡回して行っています。建築士の資格も持っているので、ガーデニング工事もやります。店名の「アルエット」はフランス語で「ひばり」の意味。花屋を営んでいた母親が歌手・美空ひばりさんのファンなのが由来です。
例年なら3月の卒業シーズンから5月のGW明けの母の日前は繁忙期。でも、今年はコロナ禍で注文が激減し、急に暇になってしまって…。それで、1日中、きなこと店で一緒に過ごしました。
僕がパソコンを開いて事務作業をしていると、邪魔しにきて、「どいてよ」とかいいながら(笑)。で、思ったんですよ。店を持ってから、ずっと休まずに走り続けてきたな、こうしてゆっくり過ごす時間や心の余裕って大事だなって。きなこに猫用のおやつをあげたら目の色を変えて立ち上がり、この子はこんなふうになるのかと新しい発見もありました(笑)。店の売上は減りましたけど、きなことの絆はこれまで以上に深まったような気がしています。
花や植物を飾ったり、人に贈ったりする方々の思いを形にして、喜んでいただけたときがフローリストとして最も嬉しい瞬間ですね。きなこは、いまや僕の創作活動になくてはならない存在になっています。一緒に遊んでいると純粋に何も考えない時間が持てて、リラックスできます。僕が夜中に作業していると近くにたたずんでいて、じっと僕を見ています。で、目があうと鳴いて返事をしてくれます。疲れて店裏で仮眠しようとすると、きなこもついてきて膝の上で一緒に眠ります。まるでジブリ映画のワンシーンみたいだなあと思うときもあります。僕にとってきなこは、ともに生きるパートナーです。
【店名】フラワースタジオ「Alouette(アルエット)」
【住所】大分市府内町1丁目6番29号
【電話番号】097-579-6819
(まいどなニュース特約・西松 宏)