母猫は事故死…溝に落ちて危機一髪の赤ちゃん猫3匹は奇跡的に救出された
「溝から子猫の声がする」。いとうみほさんに猫友Aさんから一報が入ったのは2019年9月のこと。いとうさんは奈良県から委託された動物愛護ボランティアを務め、自らも猫6匹を飼っている猫のプロ。親友の電話に急いで現場に駆けつけました。
■溝に落ちた生後間もない赤ちゃん猫3匹
消え入りそうな鳴き声は前日から聞こえていたそうです。Aさんの娘さんも加わり、一生懸命探すと、その声はどうやら道路沿いの溝の中からということが分かりました。しかし、そこには目の細かいグレーチング(金網)が立ちはだかっていました。どうしても外せず、助けられないまま。一夜明けてもまた鳴き声が聞こえてきたので、いとうさんにヘルプの電話を掛けたといいます。
友人は仕事に行かなければいけないため、いとうさんは救助のバトンタッチを受けましたが、打つ手がないまま市役所に足を運ぶことにしました。環境課を訪ねると「それは大変だ」と建築課の人も伴い、総勢5人で現場に駆けつけてくれました。なかなか外せないグレーチングに、こうなれば消防署に連絡かと思った瞬間、建築課の人が持参していたバールが力を発揮し、何とか取り外すことができました。
中をのぞくと、そこには手のひらに入るほどの小さな赤ちゃん猫3匹の姿が見えました。しかし、ここからさらに難題が噴出します。溝が50センチほどの幅でかなり狭く、手前にいた黒い赤ちゃん猫はなんとか、いとうさん自身が潜って助けたものの、残りの2匹はさらに奥で手が届きません。ちょうど、近くで樹木の伐採作業をしていた造園業の人たちに熊手を借り、引っ張り出す作戦に。しかし、その作戦も失敗します。
■狭い溝で途方に暮れた時、現れたのは細身の友人
溝の前で立ち往生していた時、偶然に通りかかったのが、いとうさんの猫友Bさん。Bさんは小柄で細身。頼み込んで、溝の中に入ってもらったお陰で無事、残りの赤ちゃん猫2匹も救出することができました。
市役所の人も造園業の人も、溝の前の住民までみんなが大きな拍手をし、中には涙を流して喜ぶ人もいました。いとうさんは「現場に行こうといってくれた役所の人は、本当は猫が苦手な人でした。でも、みんな、命を救いたいという一心。多くの人の行動が3匹の命を救いました」と話します。
■母猫は交通事故死か…救助翌日は雨、ギリギリの救出
助けられた子猫はまだへその緒がついたまま。おそらく生後3、4日だったでしょう。猫友Aさんの話では子猫の声を聞く前日、猫が交通事故に遭い、亡くなっているのを見たそうです。その猫は役所でちゃんと供養されたそうですが、亡くなったのが母猫だったということです。
赤ちゃん猫が救助された翌日は雨でした。1日でも遅れていたら助からなかったかもしれないといいます。さらに嬉しいことに1週間もしないうちに引き取りたいという方が現れました。ただ、細やかな世話が必要なため、2カ月間は猫のお世話指導もしているいとうさんが預かることになりました。
■3匹の子猫、その後は
3匹はその後、黒い子はあんちゃん(メス)、縞柄の子はふくちゃん(オス)と名づけられ、兄妹で引き取られました。ふくちゃんは6キロ近くまで成長。引き取り先の方は「一人暮らしをしている息子がこの子たちに会いに毎月帰ってくるようになりました」と目尻を下げています。
また、シロクロの子はクロネちゃん(メス)と名づけられ、先住猫のいるお家に。「子どもを亡くして落ち込んでいたうちの猫のもとにクロネが来てくれ、すっかり元気になりました」と、こちらも幸せに暮らしています。
いとうさんは猫の預かりは公的な場合しかしていませんが、このときは猫友さんたちとともに協力して救助にあたりました。3匹の子猫が奇跡的に助かり、幸せに暮らしているのも多くの人の優しさや愛があったからこそですね。
(まいどなニュース特約・山中 羊子s)