きょうの運行は→「イチエム」「エムツー」「MMG」!?…<おもしろ業界用語・バス業界編>
バスに乗ったことのない人は、おそらくいないだろう。日ごろよく利用する路線バスは、ときどき「どこで降りたらいいですか」と尋ねるぐらいで、運転手と雑談をするなんてことはないから、業界用語を耳にする機会もない。だが、やはりここにも業界用語は存在する。路線バス、高速バス、観光バス…あらゆるバス用語に詳しいFさんに聞いた。
■アイドルは歌って踊らない
「アイドル時間、アイドルタイム、アイドリングタイム……、いい方は違っても、どれも同じ意味です」
歌って踊るアイドルは英語の「Idol」で「偶像」という意味があり、転じて「崇拝される人」「あこがれの的」という意味も含む。
「そっちじゃなくて、バス業界のアイドルは『Idle』です」
Idleには「仕事をしていない」「空き時間」という意味があり、「待機時間」のこと。それを横文字で表現しただけのことなのだ。よく待機時間と休憩とを混同されることがあるけれど、待機時間は業務に含まれる。
ちなみにエンジンのアイドリングも語源は同じで、エンジンをかけたまま何もしていない(走行していない)状態から生まれた言葉だ。
■乗務員の構成はこんな言い回しで表現
路線バスは運転手だけのワンマン運行が当たり前になっているが、このような形を「イチエム」という。
「1-MANの『1』と『M』でしょうね。長距離を走る高速バスだと、運転手2名の『エムツー』になります」
1人だと「イチエム」なのに、2名だと「ニエム」ではなく「エムツー」になるのが面白い。さらに「エムツー」にガイドが付くと「MMG(エムエムジー)」となる。ちなみにガイドはバス会社に所属する以外に、複数のバス会社と契約しているフリーランスもいるらしい。
「参考までにいうと、ツアーの添乗員は、今はほとんどが派遣社員です」
運転手以外でバスに乗務することを「ヨコ乗り」といい、ガイドのほかにも運転手の指導のために乗るベテラン運転手を指す場合がある。
さて「イチエム」「エムツー」「MMG」は乗務員が乗っていることを前提に生まれた隠語だが、近い将来には運転手さえ乗らないでAIが自動運転する時代が来るといわれている。バスに運転手が乗務しない時代が来たら、どんな隠語が生まれるのだろうか。
■バスに装備されているという「主砲」「ニンジン」って何のこと?
「いい方が大袈裟なだけで、主砲はクラクションのことです。音が大きいからじゃないかな。しかも、やたらに鳴らさないし」
では「ニンジン」は?
バスを誘導するときに振る、赤く光る棒のこと。正式には誘導灯とか誘導棒と呼ぶのだそうだ。
◇ ◇
最後に、こまごました用語を羅列してみた。
【Hポール】
路線バスの運転席の後ろにある間仕切りのこと。ポールをH型に組んで掲示板を設置し、路線図や広告が掲出されていることが多い。
【インバウンド】
旅行目的で訪日する外国人のことで、言葉そのものはすっかり一般化している。バス業界ではとくに団体で訪日する外国人客のことを指し、個人で訪日する観光客は「FIT(エフアイティー)」と呼んで区別している。
【スタフ】
運行表ともいい、路線バスの運転手が携行する時刻表。運転席付近の、見やすい位置に置いておかないといけない。
【ゴンゴン】
正規の座席と補助席をあわせて55人乗りのバス。同じく60人乗りを「カンロク」という。
【テ】
運転手のこと。運転手の「手」が語源と思われる。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)