新型コロナ、ワクチンが開発されてもすべてが解決するわけではない 豊田真由子が警報
大変暑い日が続きます。
新型コロナウイルスに関して、ご相談を受けることの多い質問について、ポイントをお伝えできればと思います。(なお、あくまでも現時点でのデータに基づく知見であり、今後の研究等によって変わり得る可能性があることを申し添えます。)
■熱中症と新型コロナ
連日各地の猛暑が報道されます。2019年5~9月間には、約7万人の方が熱中症で救急搬送されました。今年は、新型コロナの外出自粛により、身体が徐々に夏の暑さに慣れることに追いつかない、マスクをしていると喉が乾きにくくなり、重症になるまで気付きにくいといったことにも注意が必要です。
加えて、熱中症と新型コロナウイルス感染症の症状は似通っていて、発熱やだるさなど区別がしづらく、実際に、熱中症だと思って経過観察していたところ、新型コロナウイルスの集団感染だったというケースもあります。(熱中症と新型コロナ、両方の影響を受けている場合もあると思われます。) こうした診断の難しさに加え、熱中症が「新型コロナの感染疑い」とみなされて、救急搬送先がすぐに見つからないといったことも懸念されます。
さらにもう一点、気象庁から発表される『熱中症警戒アラート』は、現在試行段階のものであり、現時点では関東甲信の1都8県のみが対象のシステムです。したがって、それ以外の地域は、アラートが出ていないから『大丈夫』ということには全くなりません(アラートの対象外地域では、要件を満たしていても、アラートは出ません。)
加えて、熱中症について、屋外だけでなく、屋内での被害が多く出ていることにも留意し、こまめに水分補給や休息を取り、エアコンや扇風機で温度調節をしつつ、こまめに窓を開け換気するといったことが大切になります。
■新型コロナウイルスに一度感染したら、もう感染しない?
ウイルスの中には、罹患やワクチン接種により長期間免疫が持続するものもあれば、免疫が持続せず、繰り返しワクチンを接種する必要があるものもあります。
例えば、麻疹、水痘(水ぼうそう)、風疹、流行性耳下腺炎(おたふく)等は、罹患やワクチンで終生免疫を獲得できることが多いといわれています。(ただし、幼少時の罹患歴の記憶は曖昧なことも多いので、 抗体検査で免疫の有無を確認なさることをお勧めします。)
一方で、例えば、インフルエンザウイルスは、免疫が持続しないことから、毎年ワクチンを接種する必要があります。
新型コロナウイルスについては、まだ様々な検証が行われている途上ですが、感染しても体内に抗体がきちんとできない、あるいは免疫が長期には続かないという報告があります。また、同じコロナウイルスである複数の風邪ウイルスが感染を繰り返すタイプのものであること等にもかんがみると、一度新型コロナウイルスに感染しても、再び感染する可能性は十分にあると考えられます。
■新型コロナパンデミックは、いつ、なにがどうなったら、「終わり」になるの?
感染症の大流行(パンデミック)の終わり方には、「終息」と「収束」があります。「終息」は「完全に終わること」、「収束」は「状況・事態等が、ある一定の状態に落ち着くこと」です。感染症パンデミックに関していえば、ウイルスが根絶されることや、ワクチンが広く行き渡る等により、新規感染者が出なくなると「終息」、ウイルスが弱毒化することや、ワクチンや感染で多くの人が免疫を獲得すること等により、感染状況やそれに伴う社会的な状況が落ち着いてきたら「収束」ということになります。
【「収束」の例】:2009年4月からの新型インフルエンザパンデミックの際、WHOは翌2010年8月10日に終結宣言を出しました。このときは、ウイルスを根絶した(go away)わけではないが、世界的な新型インフルエンザの動きが、通常の季節風インフルエンザと同じようになり、多くの人々が免疫を獲得したことから、パンデミックは終わった(over)」という解説がなされました。そして、2009年新型インフルエンザ(H1N1)は、現在は通常のインフルエンザとして、ワクチン接種の型のひとつになっています。
【「終息」の例】:人類が地球上から撲滅できた感染症としては、天然痘が知られています。日本における最後の天然痘の患者の発生は1974年、世界では1977年で、WHOは1980年に天然痘根絶宣言をしました。天然痘が撲滅できた理由としては、有効性の高いワクチンが開発されたことや、不顕性感染(ウイルスに感染しても症状が出ないこと)が少なく、感染すると皮疹をはじめとした明らかな症状が出るため、「本人も周りも知らないうちに、感染した上に、他人に移す」ということが基本的には無い、といったことが挙げられます。
では、新型コロナウイルスの場合はどうでしょう。ここまで、地理的にも人数的にも感染が世界に拡大してしまったことや、不顕性感染がかなり多いこと等にかんがみれば、新型コロナウイルスの根絶はたやすいことではなく、であれば、ワクチンや治療薬の開発・流通や、人々の行動変容によって、感染拡大状況が落ち着くこと等により、「収束」することを目指すことになると思われます。
■ワクチンは、いつできるの?
WHOによれば、2020年8月13日現在、世界で167のワクチン候補が開発中で、これまでに治験に入ったものが29種類、そのうち、米バイオ医薬ベンチャーのモデルナや米ファイザー、英アストラゼネカなど5つが治験の最終段階(第3相)にあり、来春の接種開始を目指すとしているものもあります。
ただし、ワクチンについては、安全性と有効性が確認されることが必須です。さらに、開発に成功しても、それが量産されて、広く行き渡るようになるまでに時間がかかります。先進国だけでなく、途上国にも供給されないと、世界全体の収束は望めません。
それと、通常のワクチンもそうですが、接種したすべての方について必ず感染を防げるということではありません。過去には、広く流通してみたら、効く割合が治験より圧倒的に少なかったり、あるいは想定外の副作用が出たりといったケースもあります。
それから、すべての疾病に有効なワクチンや治療薬が必ず開発できるわけでもありません。例えば、これまで30年以上を費やしても、HIVワクチンは、未だ開発されていません。
悲観的になりたいわけでは全くありませんが、「ワクチンさえ開発されれば、すべてが解決する!」ということではなく、事実を事実としてお伝えすることが、大切だろうと思います。
~『最新の正しい情報を基に、過度に不安にならず、前向きに、事態は最悪を想定する』
がんばってまいりましょう。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。