ゴルフ場でカラスにつつかれていた5匹の子犬…「助けてあげて!」のお客様の声から命つながる
2008年5月、5匹の野犬の子が保護されました。場所は宝塚ゴルフ倶楽部。90年以上の歴史を誇る関西の名門ゴルフコースです。
「コース内に子犬がいてカラスにつつかれていたから保護してあげてほしいと、お客様からお話があったんです」
そう振り返るのはキャディーを務めていた長谷部美幸さん。お父さん犬とお母さん犬もコース内で目撃されていましたが、成犬の捕獲は難しいため、ゴルフ場のコース管理スタッフは5匹の子犬だけを保護しました。お父さんとお母さんはその後もコース内で暮らしていたようです。
生後2~3カ月と見られた子犬たちの里親探しが始まります。すぐに手を上げたのは「ちょうど犬を飼いたいと思っていた」長谷部さん。2匹いた女の子のうちの1匹を引き取りチィップと名付けました。
「最初、口がすっごく臭かったんです。なんとも言えない臭いでした。病院で相談したら『これまで食べてきたものがひどいから。変わってくるから大丈夫』と言われました。たしかに臭いはすぐに消えましたが、その後もミミズや砂まで食べていましたから、苦労して生きてきたんだなと思いましたね」(長谷部さん)
カラスを怖がっていたと言いますから、お客様の通報がなければ、最悪の事態になっていたかもしれません。
当時、長谷部さんはミミちゃん、サク君という2匹のフェレットを飼っていて、チィップちゃんと一緒に暮らし始めました。
「ミミはチィップが来て2カ月で亡くなったんですけど、サクとは1年くらい一緒にいました。9歳まで頑張ってくれて、最後は足が動かなくなってヨロヨロして…。そんなサクを、チィップがずっと面倒見てくれていたんです。サクが起きてきたら私たちに向かって吠えて、『気を付けてよ』って知らせてくれたり、ごはんを食べ終わったら口の周りをなめてキレイにしてあげたり。ほとんど垂れ流しのようになっていたウンチまでなめてあげていました」(長谷部さん)
幼いながらも、チィップちゃんには母性が芽生えていたのでしょうか。サク君が亡くなると“うつ”になってしまったそうです。
「食欲はないし、お散歩も行きたがらない。何もしなくなって病院へ連れて行ったら、うつだと言われました」(長谷部さん)
チィップちゃんが元気を取り戻すまで、長谷部さんは職場(ゴルフ場とは別の会社)に同伴出勤して寄り添いました。
他の4匹もすぐに里親さんが見つかりました。1匹は長谷部さんの同僚キャディーのお母さんの家へ。1匹はコース管理スタッフの知人宅へ。残る2匹は里親募集サイトを通じて神戸と東大阪へ巣立って行きました。
神戸在住の鳥崎芳之さん、弘子さん夫妻はオスのウッディー君を迎えました。サイトにはたくさんの写真が掲載されていましたが、弘子さんはウッディー君を一目見て「ピンと来た!」のだとか。「犬を飼ったら一緒にスポーツをするのが夢だった」という夫妻は、ウッディー君が5歳になった頃からシーカヤックを始め、休日には香川・小豆島などに出掛けて楽しんでいます。
チィップちゃんとウッディー君は3歳のときに再会を果たし、その後も数年に一度、交流しています。きょうだいという認識はないのかもしれませんが、どちらも穏やかな性格で、取材当日もつかず離れずの距離でまったりしていました。
ゴルフ場で生まれ、恐らく過酷な生活を強いられていた子犬たちですが、お客様、ゴルフ場スタッフ、里親さんと優しい人たちの手によってバトンがつながれ、今は皆、幸せに暮らしています。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)