頭脳警察PANTA「70歳の今が楽しい」 コロナ禍でも止まらぬロック界の重鎮が語る50年
2019年に結成50周年を迎えたロックバンド「頭脳警察」は、今も結成当初と変わらぬ情熱を抱えながら、精力的に音楽活動を展開している。新型コロナウイルスの影響で以前のようなライブができなくなり、深刻な打撃を受けている音楽業界だが、ボーカル/ギターのPANTAは「図らずも全世界が同じスタートラインに立っている。何が正解かわからないけど、逆にこれをビッグチャンスと考えたい」と決して現状を悲観せず、ライブ配信という未知の分野にも進出。あらゆることを面白がりながら、日々挑戦を続けている。
コロナ禍で全予定キャンセル「でもビッグチャンス」
「今のバンドの状況は、(何もなくなってしまったけれどそれでも未来を歌う)新曲『絶景かな』の歌詞の通りです。50周年を駆け抜けて、今年2月2日に俺とTOSHIの古希を祝う生誕祭ライブで一段落した直後にコロナ禍。それ以降の予定は全部中止になった。ギリギリのタイミングでしたね」
「今はたくさんの人が苦労しているけど、そのうち、絶対にこの状況を打ち破るヤツが出てきますよ。音楽業界に関して言うと、これからライブ配信がものすごい勢いで進化していくと思う。配信には自分も最初は懐疑的だったけど、もう是非を問うているような段階ではなくて、共存しかありません。現実を否定して、過去を懐かしんでも始まらないでしょう。絶対にもう元の世界には戻れないわけですから」
「大多数の人が悲観的になっていると思うけど、ビッグチャンスだと考え方を切り替えた方がいい。どっちにしろ、何らかの方法で乗り越えていかなきゃいけないんです。50年やってきて、初めて味わう感覚。どういう感じになるのか、これから楽しみだね」
■「止まっていないから変わらない」頭脳警察の50年
頭脳警察の歴史を映像やインタビューで振り返りながら、バンドの現在地を刻む映画「zk/頭脳警察50 未来への鼓動」が全国の映画館で公開中。PANTAは「ファンじゃなくても、頭脳警察を知らなくても楽しめる、よくできた映画です」と笑う。
「2019年は我々と年齢が40歳ほど離れている黒猫チェルシーの澤竜次と宮田岳、それに樋口素之助、おおくぼけいという若手ミュージシャンもメンバーに加わりました。興味を持ってくれた若い人たちも、新鮮に感じながら見てもらえたら嬉しいよね」
「映画の中でも語っているけど、止まっていたら伝説になっちゃうわけ。世の中は常に回っているけど、俺たちもこうして俺たちなりに動いているから、同じ位置にいて変わっていないように見える。“止まっている”のと“変わらない”のとは、意味が全然違う。止まっていないから、変わっていないんだよ。…伝わるかな(笑)」
■ライブ配信にも意欲「課題は多いが利点も多い」
「新しいメンバーとはライブ配信も積極的にやっています。ライブ配信は、いざやってみると、音と映像のずれや料金設定などの課題がいっぱい出てきた一方、利点も見えてきました。何より、小さいライブハウスでしか見てもらえなかった演奏を全世界どこからでも見てもらえる。普段ライブハウスに来たことがないようなメンバーの親戚や、遠方に住んでいる人も気軽に見られるんです。バンドにとって、このメリットの大きさは計り知れません」
「頭脳警察は特に中高生などの若い世代に見てもらえるよう、視聴料金を2000円程度に抑えて、できるだけ敷居を低くしています。新規ファンへの入り口としては無料の方がいいのか、とか、いろいろ考えますよ。料金体系は統一されていないわけですから、正解はわかりません。でも我々は、少しでも自分でお金を出した方が真剣に見てもらえるだろうということで、お小遣い程度の額に設定しています」
■新曲で辿り着いた「What a Wonderful World」の境地
8月2日に実施した無観客ライブの配信では、ルイ・アームストロングの『What a Wonderful World』とバンドの新曲『絶景かな』を続けて披露した。
「『What-』は、いつかこういう何の変哲もない歌を歌えるだけの価値のある人間になりたいと思っていた思い入れのある曲だけど、今回映画のエンドロール用に『絶景かな』を書き下ろした数週間後、『これは俺なりの「What-」だ!』と気づいて鳥肌が立ったんです。しかもライブで歌ってみると、何の変哲もないどころか、歌詞がものすごいの。反語ではなく、シニカルの先にある世界の本当の素晴らしさを歌っている。実は『絶景かな』もそう。やってよかったと心から思いました」
「70歳になって、これまでの経験や蓄積がどんどん繋がっていくから面白い。これからも頭脳警察だけじゃなくて、もっと好き勝手にいろんなことをやりたい。若い連中の力も借りながら、切磋琢磨していきたいですね」
「zk/頭脳警察50 未来への鼓動」は関西では大阪・第七藝術劇場で公開中。京都みなみ会館や神戸の元町映画館でも近日公開予定。
(まいどなニュース・黒川 裕生)