タワマンでも安心できない、都会で暮らす人たちの防災をトイレ事情から考える
日本トイレ研究所所長の加藤篤さんたちは、2019年秋に台風19号で床下浸水した数百人が居住する神奈川県内のタワーマンションで、防災・防犯委員にヒアリングしました。タワマンに住む人は何に気をつけ、どのような備えをしたらいいのでしょうか。加藤さんに聞きました。
■トイレの水を流してはいけない
台風や地震で被災した時、断水になる前に、真っ先にトイレに駆け込み用を足したくなるかもしれません。しかし、被災して床下浸水したら、決して、トイレの水を流してはいけません。
「上階でトイレを使用して、タンクに残っている水や風呂の水で汚物を下に流してはいけません。建物の構造によって異なりますが、床下浸水しているということは、下水道や浄化槽、床下の排水管は満水になっていて排水できないのです。上階の人が下階に水を流すと、下の階のトイレでは水の行き場がなくなり、汚水がはね出したり、あふれたりします」
「まずは、水を流さないように周知してほしいのですが、下の階の人は、便器の封水(便器の底にたまっている水)の様子を見ます。空気が逆流してボコボコいったり、封水が跳ねだしたりしたら注意が必要です。ずっと見ているわけにもいかないので、便器のフタを閉め、フタが汚水の跳ね返りで汚れていないか確認してもいいでしょう。上階の人が水を流した時に備えて、水を入れたポリ袋を便器の中に入れ、便器の中の水があふれないようにします」
■携帯トイレ、一週間分の備えを
床下浸水してしまったら、断水していなくてもトイレを使えなくなりますが、トイレ空間と便器は使えます。便器にすっぽり被せるタイプの携帯トイレを準備しておきます。
「タワマンでは備蓄もあったそうですが、各家庭での備蓄も欠かせません。一週間分は備蓄しておきます」
神奈川県のタワマンの場合、被災後上水が出るまでに一週間かかったそうです。しかし、水は一週間で出るようになりましたが、保健所の水質検査の結果が出るまで飲用には使えず、完全な復旧には二週間かかったそうです。
排水の復旧には8日間かかったそうですが、水を流すと地下の汚水槽があふれ出す恐れがあったので、復旧まで下水を流すことはできず、トイレの水を流せなかったといいます。
「注意が必要なのは自動洗浄トイレです。便座から立ち上がると自動で水が流れるので、電気の復旧後、水が流れないようにコンセントを抜いておかなければなりません」
■携帯トイレの一週間分の備蓄数試算
4人家族の場合、4人×5回(1日あたりのトイレ回数)×7日間(備蓄日数)
どんな携帯トイレがいいのか
便器に被せて使うタイプの携帯トイレにもいくつか種類があります。
「袋に凝固剤を入れるものは捨てる時にかさばらず、袋と吸収シートが一体化しているものは設置が簡単にできたそうです。災害時は停電することも多いため、夜間、ランタンなどの灯りを頼りに設置する必要があり、できるだけ簡単に使えるものがいいでしょう」
携帯トイレのにおい漏れで困ることはなかったといいますが、香料付きのものは賛否両論あったそうです。
「携帯トイレ以外には、両手を自由に動かせるヘッドライト、乾電池を入れたら使える携帯用ウォシュレットがあるといいでしょう。携帯トイレの使用後は大判のウエットティッシュやアルコールで手指の消毒も行います」
タワマンや最新鋭のビルは、日頃は不自由なく暮らせますが、被災すると停電や断水してしまいます。食べることと同じように排泄も生きていくうえで欠かせない、重要なことです。気象庁では、9月の台風シーズンを前に防災グッズの見直しをすることを勧めています。トイレの防災、点検してみてはいかがでしょうか。
◆加藤篤 特定非営利活動法人日本トイレ研究所代表理事。まちづくりのシンクタンクを経て、現職。災害時のトイレ・衛生調査の実施、小学校のトイレ空間改善、小学校教諭等を対象にした研修会、トイレやうんちの大切さを伝える出前授業、子どもの排便に詳しい病院リストの作成などを実施。災害時トイレ衛生管理講習会を開催し、人材育成に取り組む。TOILET MAGAZINEを運営。〈委員〉避難所の確保と質の向上に関する検討会・質の向上ワーキンググループ委員(内閣府)、循環のみち下水道賞選定委員(国土交通省)など。(書籍)『うんちはすごい』(株式会社イーストプレス)、『うんちさま』絵本(金の星社)など
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)