3匹の猫とのつらい別れを癒やしてくれた…夫婦を救い「家族の在り方」教えてくれた2匹の元保護犬
兵庫県神戸市に暮らす2匹の元保護犬、クワイ君とカブ君は黒木洋明さん、敦子さん夫妻に「家族の在り方」を教えてくれました。
クワイ君は山口県周南市生まれ。2年前に『保護犬ふれあいカフェGUARDIAN』を経て黒木家にやってきました。周南市といえば野犬が多いことで知られ、今月10日に市が野犬の目撃情報を共有できるスマートフォン向けアプリを配信するほど。広大な緑地があり、犬を遺棄する人やむやみに食べ物を与える人が絶えないことが原因とされています。
カフェで出会ったとき、クワイ君は生後約3か月でした。顔と耳は黒く、体は白地に黒のぶち模様。ピンクの鼻がチャームポイントで、「ホルスタインの子供みたいだった」と敦子さんは笑います。
「心を閉ざしていました。じっとして動かないし、抱っこしても固まったまま。犬らしくないというか、孤高な子だと思いましたね。でも抱き心地は別格で、とてもしっとりしていて…不思議な生き物といった感じに惹かれたんです」(敦子さん)
カフェに通うようになったのは洋明さんが先でした。実はクワイ君を迎える前、夫妻は愛猫を立て続けに3匹失ったのですが、どの子も症状が出てすぐに亡くなってしまい、受け入れがたい状況が続いたそうです。
最初はタビちゃん。敦子さんが結婚前から飼っていた猫です。おかしな咳をするようになり病院で処方された薬を飲ませると、ごはんを食べなくなって見る見る衰弱…1週間後に逝ってしまいました。次はグリちゃん。タビちゃんと同じく敦子さんが独身時代から飼っていたウィ君がさみしいだろうと迎えた保護猫でした。ところが、家に来て3か月で猫コロナウイルスに感染。発症からわずか2週間で旅立ちました。最後はウィ君。片方の後ろ脚をうまく動かせなくなり、病院へ行っても原因不明。新薬の抗生剤を注射してもらいましたが、程なく両足が動かなくなり、改めて検査をすると腎臓の数値が異常に悪いことが判明しました。そして、3日も持たずに天国へ。のちに分かったことですが、腎臓が弱っている猫にその新薬を投与する際は注意が必要だったそうです。
「病院のせいとは言いません。ただ、タビに飲ませた薬は硫黄のような強烈なにおいがして飲むのをすごく嫌がっていたし、ウィも注射を打たないほうがよかったかもしれない。そんな悔いばかりで精神的にきつかったです」(洋明さん)
たった1年の間に3度の別れ…洋明さんが「動物を飼うのが怖くなった」のも無理はありません。それでも約1年後、近くに保護犬カフェがあると知り足を運んだのは、心のどこかに「もう一度」という思いがあったからでしょう。今度は猫ではなく犬を、と考えたのも分かる気がします。
カフェには途中から敦子さんも一緒に行くようになり、クワイ君をずっと膝に乗せている姿を見て、洋明さんは言いました。「ずっと抱っこしてたらこの子がもらわれるチャンスが減るやん。そんなにかわいいなら飼ってもええよ」。こんなセリフだったそうですが、実際は洋明さんが迎えたかったのだと思います。
クワイ君が来て「生き物と暮らす豊かさを改めて感じた」という黒木夫妻。1年後にはカブ君を迎えて多頭飼いを始めました。GUARDIANの秋山文子代表から「ビビリのクワイちゃんはイケイケの子と一緒に住むと変わるかもしれない」と、元気いっぱいのカブ君を勧められたのがきっかけでした。
実際、カブ君が来てクワイ君は変わりました。大きな音に驚いて部屋の隅で固まっていたカブ君の前に立ち、自分も震えながらカブ君を守ろうとしたり、逆にカブ君に嫉妬して意地悪をしたり。「感情表現が複雑になって、明るく活動的になりました」(黒木夫妻)。あまり好きではなかったお散歩も、カブ君と一緒なら玄関まで飛び出してくるようになったそうです。
「クワイは4ピースそろうと安心するみたいですね。主人と私とクワイのときは未完成だったのが、カブが加わって“家族”になりました。私たちには子供がいないのでベクトルが双方向だったのですが、いろんな矢印が出てきて面白いですよ。クワイとカブが“家族の在り方”みたいなものを教えてくれた気がします」(敦子さん)
洋明さんはバンド活動をしていて“夜型人間”だったそうですが、今では太陽の下、クワイ君、カブ君と一緒にアウトドアライフを楽しむように。「すっかり“犬脳”になりました」。そう言って笑う洋明さんは、亡くなった猫たちの分もと愛情を注いでいます。
(まいどなニュース特約・岡部 充代)