猫ボランティアの家の前に捨てられた猫、ショックで人間不信になり噛みついたが、里親の愛情に心を開く
家庭の事情で飼えなくなった猫は、譲渡サイトを通じて男性の里親のもとに行った。ところが後日、その男性は猫ボランティアの家の前に猫を遺棄した。猫ボランティアの家の防犯カメラに男性が映っていた。猫はすっかり人間不信に陥っていた。
■猫ボランティアの家の前に遺棄された猫
2019年のゴールデンウイーク、大阪府の猫ボランティアの辻本さんの家の前にダンボール箱が置かれていた。丸い穴が開いていて、中から激しい猫の鳴き声が聞こえていて、辻本さんは猫が2匹入っているのかと思ったという。子猫ではないようだった。ダンボール箱ごとケージの中に入れて開けてみたら、1匹の大人の猫が入っていて、捨てられたショックからかシャーシャー怒っていた。ノルウェイジャンという品種の猫だった。
辻本さんが防犯カメラを見てみると、早朝、男性が捨てに来たことが分かった。猫は4時間ほど誰にも発見されず、箱の中に閉じ込められていたことになる。警察に届け出て被害届の受理はしてもらえたが、遺棄犯の捜査はしないと言われたそうだ。獣医師は、2歳くらいだと言った。後日、辻本さんは、譲渡サイトに掲載して猫の里親を募集した。ただ、トライアルに行ってもうまくいかず、返されたという。
■手ごわい猫のトライアル
大阪府に住むHさんは大人の猫を飼おうと思い、譲渡サイトで探していた。猫を飼うのは初めてで、仕事で留守にするので、子猫は難しいと思った。譲渡サイトで、辻本さんが保護した猫を見つけ、エントリーしてみた。
9月28日、辻本さんの家に猫を見に行くと、「初めての人には手ごわい猫ですよ」と言われたそうだ。それもそのはず、玄関でHさんがなでようとして手を伸ばしたり引っ込めたりすると、噛みついてきた。面談中にも2、3回噛みつかれたという。
10月1日の午前中、辻本さんから「Hさんには厳しい。他の猫を紹介します」と連絡があったが、夜に再度連絡があり、Hさんがトライアルをすることになった。
10月6日、Hさんは、大きな猫でも入れる3段ケージを購入し、爪とぎやトイレを買い揃え、猫を迎えた。名前は、女の子なので可愛い名前がいいと思い、モモちゃんと名付けた。
「もしかしたらトライアルでだめになるかもしれないと思いましたが、無駄になってもいいと思いました。案の定、うちに来た翌日に噛まれましたが、この猫、私が断ったら、他に行くところがないだろうと思いました」
Hさんは、「捨てられたから心に傷を負っている、人が怖いのだろう」と思い、ケージの中で育てるつもりだったが、1日もするとケージから出てきて、部屋の中を探検し始めた。噛まれてもいいように、コートを着て、ゴム手袋をはめてフードを与えたが、一週間もすると徐々になれてきて、落ち着いたという。トライアルは無事終了した。
■猫を遺棄した男性
Hさんの長女が帰省した時、なにげなく譲渡サイトを見ていると、昔、モモちゃんを飼っていた人が投稿していた。モモちゃんを男性に譲渡して、時々様子を報告してもらっていたが、連絡がつかなくなったという。心配になり、免許証のコピーを頼りに自宅を訪問すると、「怪しい人がインターホンを鳴らしている」と警察に通報された。
警察は事情を説明すると分かってくれたが、男性が家族と住んでいると言っていたのに一人暮らしだったことや、動物を飼っていないと言っていたのに犬を飼っていたことが分かったという。問い詰めても、「分からない」「知らない」と言うだけなので、らちが明かなかった。
その人は家庭の事情で猫を手放したのだが、とても後悔していた。Hさんは、モモちゃんを飼っていることや暮らしぶりを譲渡サイトを通じて送った。モモちゃんを辻本さんの家の前に遺棄した男性の住所や名前も分かったので、辻本さんに連絡。辻本さんが警察に届け出ると、男性は厳重注意された。山中に捨てると罪は重いが、人の家の前に捨てたので、「新しい飼い主がみつかればいい」という気持ちも伺われため、厳重注意に留まったそうだ。
モモちゃんの血統書を元飼い主さんに見せてもらうと、正確には6歳だということも分かった。モモちゃんは現在7歳4カ月。Hさん宅で暮らすうちに「人は怖くない」と分かったようで、昔は麻酔をしないとシャンプーもできないと言われたが、いまでは大人しくシャンプーさせてくれるという。Hさんは、ペットショップで命の売買が行われたり、動物が遺棄されたり、暴力を振るわれたりすることが減るといいと願っている。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)