あなたの愛猫はどこから来た? 日本猫のルーツを調べるゲノムプロジェクトが進行中
日本猫ゲノムプロジェクト。猫好きさんの胸が躍るような研究が進行中です。日本にいる雑種猫のDNAを調べ、ルーツや性質の遺伝的、環境的基盤を明らかに…というと難しそうですが、綿棒でほっぺの内側をこちょこちょするだけ。愛猫家はエントリーをさあ、さあ、さあ!
このプロジェクトは、いわゆる日本猫(雑種、ミックス)の遺伝子を調べることで、形質や性質と遺伝子の関係、歴史的なルーツを解明するというもの。アニコム先進医療研究所株式会社研究員で、京都大学野生動物研究センター特任研究員の荒堀みのりさんが研究しています。
対象は、個人の飼い主(アンケートは1頭のみ、DNA採取は何頭でも)、猫カフェ、保護猫シェルターなど。手順は簡単で、①応募フォームに名前、住所、猫の名前などを入力②DNA採取スワブ、アンケート、同意書、400円相当のおやつまたは雑貨が送られてくる③DNAを採取し、アンケートに記入し返信-と簡単です。
猫の研究は未解明の分野が多く、日本への渡来についても弥生時代、古墳時代、平安時代など諸説あります。他の家畜動物(牛や馬、犬など)は人による長い選抜の歴史があり、人にとって都合の良い形質・性質を持った動物が選択されてきましたが、雑種(土着)の猫は多くの国で、人によって交配相手が決められない状態が長く今でも続いています。一方、人と暮らしている以上、その影響も考えられます。
「『微妙な家畜動物』である雑種猫の遺伝学、遺伝と行動の関係、どこから来てどこへ行くのか、という問いを解明したいと考えています」と狙いを語る荒堀さんに聞きました。
-日本猫のルーツを探るというフレーズに心がくすぐられます。
「人の移動と猫の移動の関係は、家畜化という学術的な意味でもおもしろいテーマだと思います。人間とは長い付き合いですが、ペットのなかでも野良猫として自由交配をしているので、他の動物ほど人の影響は受けていません。そのような弱い交互作用を知りたいと思っています。日本固有のヤマネコであるツシマヤマネコとイリオモテヤマネコの関係性も気になります」
-見えてきたものはありますか。
「修士1年生から博士3年までに集めたサンプル数は約600、2019年に現職についてからからは250です。ルーツに関して予備的な解析をしたところ、地域差がある可能性がありました。応募してくださった人には、沖縄や北海道の方もおり結果が楽しみです。遺伝学的な研究はもっとサンプル数が必要なのでご協力をお願いします」
-猫研究の奥深さとは
「猫は犬と並んで人気のあるペットですが、ではどのようにして今のようなネコになったのかについて知りたいと思っています。遺伝子の変化に表れているかもしれませんし、行動にも表れているかもしれません。それになぜこんなにカワイイのかも不思議です。ただ、実験動物ではないのでマウスやラットでできることが猫ではできません。犬や猿でできるような訓練もなかなかできませんので、研究自体は難しいですが、さまざまな論文が出ています。猫研究にかかわるCAMP NYAN TOKYO(キャンプ ニャン トウキョウ)という研究者集団があります。猫の行動や知性、生態について研究を紹介していますので、ぜひご覧ください」
-荒堀さん自身の研究は
「猫がペットとして人と密接な関係を築くに至った経緯や理由が知りたくて研究をしています。解明は途上ですが、見えてきたこともあります。一部の猫は近縁野生種と異なる遺伝的特徴が確認され、そのような個体は遺伝子レベルで人への従順性を持つよう変化している可能性が示されました。一方、近縁野生種から遺伝子がほとんど変化していない猫も見られました。特殊な経緯を経て人のペットになった猫は、いわば家畜種と野生種の両方の特徴を種内に保存しているのかもしれません」
-荒堀さんの愛猫エピソードを
「京都大の吉田寮に入居したときに私の部屋に住み着いたメス(エルちゃん)を飼っています。他のネコが嫌いでなわばり争いばかりしていました。よく夜中に鳴き声が聞こえて、他のネコと喧嘩しているのを助けに行きました。一度行方不明になり、それ以降は室内飼いにするようにしています。私の元ラボの教官も言っていたのですが、『自分のペットが自分を愛しているのか知りたい』という動機も研究のきっかけです」
(まいどなニュース/神戸新聞・竹内 章)