土砂降りの中、工場から聞こえてきた鳴き声…5人のお巡りさんと鉄さびに汚れながら救出した、子猫との出会い
大阪府に住む多田さんは、土砂降りの雨だったが、ふと気が向いてドラッグストアに向かった。途中、助けを呼ぶような子猫の鳴き声が聞こえてきた。工場の敷地内で子猫を見つけたが、自力では救出できない。多田さんは、お回りさんと一緒に救出に向かった。
■助けたいけど、助けられない
2020年6月18日の午後1時くらい。外はかなりの土砂降りだったが、大阪府に住む多田さんは、用もないのに近くのドラッグストアに行きたくなった。
傘をさして徒歩で向かうと、途中、子猫の鳴き声が聞こえてきた。周囲を探すと、工場の外にあるパレット置き場のような場所から鳴き声が聞こえてきた。パレットが積み上げられた奥に大人の胸ほどの高さの銀色の大きい丸いタンクがあり、子猫はタンクとパレットのわずかな隙間に落ちて自力では出られないようだった。多田さんは助けたいと思ったが、周りにささくれた木材がたくさんあって近寄れなかった。
いったん家に帰り、洗濯カゴや懐中電灯、梯子代わりになるようなフェイスタオルを縦半分に切ってくくったものを持ち、再び現場に戻った。まだ猫が鳴いているのを確認してから近くの交番に行き、「今から工場の敷地内で猫の保護活動をします」と伝えた。お巡りさん5名が一緒に来てくれると言うので一緒に現場に戻ったそうだ。
■お巡りさん、子猫を救出
ずっと鳴いていたため、だんだん声がかすれて小さくなってきた。雨が降り続く中、暗くなってきたので、お巡りさんたちは、みんなでライトを照らしながらドロドロになってタンクによじ登り、なんとか助けようとしてくれた。はしご代わりのタオルに捕まることもできないくらい小さな猫だということが分かっても、30分以上頑張ってくれた。しかし、腕も入らない隙間でどうしようもなく、他のお巡りさんが「駅に行って拾い棒を借りてきます!」と、パトカーに乗って取りに行ってくれた。パトカーが戻ってきて、タンクに乗っているお巡りさんに拾い棒を渡し、つかみあげた子猫を多田さんが用意したタオルで抱きとめた。
みんな鉄さびや雨でドロドロになったが、喜んでくれた。
タンクに登ってくれたお巡りさんも猫好きで、以前助けた子猫を今も飼っているらしく、動物病院やおすすめのフードを教えてくれた。
■美しい野良猫の子猫
子猫を救出した日、1度も母猫らしき猫を見かけなかった。子猫が衰弱していたことも考えると、母猫が「この子は助けられない」と判断し、置いていったのかもしれない。
多田さんは、産まれた時からいつも猫がいる家庭で育ったので、猫好きだった。大人になって自立し、初めて自分の猫として自分で飼おうと思ったそうだ。
拾い棒にはさまれ、雨と泥にまみれた子猫は、ライトに照らされると黒か三毛か、どんな色なのかよく分からなかった。
「どんな子なのかと思っていたら、輝くようなグレーだったので驚きました。野良でグレー!?というのも不思議でした」
多田さんは、薬局でノミ取りシャンプーを買い、帰ってすぐシャンプーをした。その後、子猫は美味しそうにごはんを食べ、ダンボール箱の中で仮眠した。しかし、目覚めると、体力が続く限り夜泣きをした。
「3日くらい起きたと思うと鳴いていて、根比べのような生活でした。それ以降はだんだん慣れてきたようで、鳴きやみました」
見た目は横文字の名前が似合いそうな顔だったが、性格がちょっとどんくさかったので「豆千代」と名付けた。
■運命的な出会い
保護して2週間くらいした頃、多田さんが横になっていると、近くで香箱座りをしてウトウトしはじめた。触ると咬まれたが嬉しかったという。
豆千代ちゃんを飼って以来、毎日、豆千代ちゃんの世話で始まり、夜も豆千代ちゃんの世話で終わるという、猫中心の生活になった。生き物を飼うとお金もかかるし、責任ものしかかる。最期の別れは避けて通れない。しかし、それまでに素晴らしい経験と思い出が出来ると多田さんは言う。
「見た目や一時の流行に流されず、運命的な出会いも素敵なものだと伝えられたらと思います」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)