83歳ユーチューバー・林家木久扇…「珍獣動物園」で漫画の腕前発揮!? 3月に明治座で60周年公演

 日本テレビ系「笑点」の大喜利メンバーとなって51年。落語家・林家木久扇は芸能生活60周年を迎えた今年、コロナ禍で記念公演が延期を余儀なくされる中、ユーチューバー「KIKUKIN」として新たな活路を見出している。今秋には通算60冊目の著書も出版。「木久蔵ラーメン」の販売も続け、プロの漫画家としても活躍。表現と実業をマルチに横断する木久扇は19日に83歳の誕生日を迎えた。その活動を振り返った。

【ユーチューバー】

 動画投稿のノウハウを人気ユーチューバー・HIKAKINから学び、昨年12月にチャンネル「KIKUKIN TV」を開設した。

 「ネタ作りは毎週で大変です。時世も入れなければいけない。『転んでないのにコロナとはこれいかに?感染してないのに新幹線と言うがごとし』『ゲームでもないのにトランプ大統領とはこれいかに?円周率でもないのに習近平と言うがごとし」とかメモに書きため、一度は高座でかけてみる。『新幹線』のネタはすごく拍手もらいました』

 研究に余念がない。

 「素人さんが作っているのは、例えば『カメラ据え置きで姉妹3人が並んでお化粧していて、できあがった子からいなくなって、お姉さんだけ残っちゃう』…それだけなんですよ。それでものすごい数字を稼ぐ。テレビ番組では成立しない、そんな何でもないことがウケている。僕がやったのは『ラーメンかき氷』。スープを凍らせたものをシャキシャキかいて、麺と具を乗せる。それは評判よかったです。食べたら冷たくておいしくて面白くてね。『珍獣動物園』と題して、象と金魚の珍獣で『ゾウキン』とか、カエルにオッパイで『チチカエル』など漫画で描いて放送したのも評判よかった。中1の孫の反応を見てウケたらやります。面白いこと考えるのは大変です」

 「かっぱ黄桜」の清水崑を師とする漫画家としての腕前がユーチューブでも発揮されている。

【木久蔵ラーメン】

 1982年に「全国ラーメン党」を結成して会長に就任し、「木久蔵ラーメン」チェーンの展開も始めた。

 「チェーンは多い時で27店舗やって大変でした。落語にして元は取り戻しましたが(笑)。今は基本的に通販。保存期間は生麺が1カ月で、乾麺は半年くらいもつので、お家に置いておく人には乾麺をお勧めしています。店舗は早く締めなきゃいけない時代になり、そういう意味では、店をたたんで通販にしたというのは時代を読むのが早かったかもしれません」

【書籍】

 今年5月の「イライラしたら豆を買いなさい 人生のトリセツ88のことば」(文春新書)に続き、9月に「木久扇のチャンバラ大好き人生」(ワイズ出版)を出版。鞍馬天狗役でCM出演、笑点で親しまれた「天狗の木久ちゃん」のルーツである嵐寛寿郎をはじめ、片岡千恵蔵や市川歌右衛門から里見浩太朗、美空ひばり、高橋英樹ら幅広い年代のスターをつづった一冊。通算60冊目の著書となり、芸能活動年数と並んだ。

 「チャンバラ本には丹波哲郎さんのことも書いています。丹波さんが『霊界』の本を出されている時に僕も一冊出したんですよ。『木久蔵の心霊教室』って(笑)。その時、丹波さんに『僕、落語家としてどうですか』と聞いたことがあって、『きみはいいねえ、いろんな人に守られていて。亡くなったお母さん、おばさんが付いている』と言ってくれた。当時、おふくろも、おばさんも生きてたんですけどね(笑)。でも僕は訂正しなかった。すごく丹波さんを好きになって」

 さらに出版は続く。「12月に、世の中を渡るのにバカのふりすると楽ですよという『バカの総決算』になる本を出します」。周年の数字を年内に1つ超える。

【60周年仕切り直し】

 1945年3月10日の東京大空襲で実家の雑貨問屋が全焼。コロナ禍では大会場での60周年記念公演が相次いでなくなった。

 「(長男の2代目)木久蔵が言ってくれたんだけど『お父さんすごいね。東京大空襲を体験して、胃がんと喉頭がんを経験して、今年はコロナ。そのまんま歴史を生きている』って。被災した家の子どもは働いた。ラジオの銅線はもうかるとか情報交換して日銭を稼ぐ。歩く時も磁石を腰からぶら下げてクギを吸い寄せたり。今ならウーバーイーツのアルバイトから面白い切り口が見つけられるかも」

 朗報があった。明治座で来年3月16-17日の2日間4公演が60周年記念公演として決まったのだ。「東京五輪と同じで、来年また60周年のうたい文句でやりますから」。焼け跡の少年時代から培ったたくましさ。今できることを考えながら前を向く。

   ◇   ◇   ◇

 7月、記者は客席を半分に制限した浅草演芸ホールでの60周年興行を拝見した。師匠の林家彦六、笑点を企画して初代司会を務め、自身を大喜利に導いた先輩・立川談志の物まねを披露。そこには名人の思考や生きざまを内面から再現した「ドキュメンタリー」があった。コロナ時代にユーチューバーという新たな肩書きも加わったが、表現媒体が変わっても、木久扇流の本寸法は変わらない。

(まいどなニュース/デイリースポーツ・北村 泰介)

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