「うわっ!この材料、めっちゃビビる」…ってどんな状況?実は語源は平安時代に!<おもしろ業界用語・町工場編>
ひとくちに町工場といってもさまざまな業種があるけれど、今回は主として金属加工の現場で使われる用語を、元旋盤工のUさんに聞く。
■「町工場」は「まちこうじょう」?「まちこうば」?
製造業で、町なかにある小規模な作業場を「町工場(まちこうば)」と呼ぶ。字は同じ「工場」でも「こうじょう」と「こうば」は、どう違うのだろう?
「じつは、はっきり線引きされているわけじゃなさそうです。規模が大きいところを『こうじょう』、小さいところを『こうば』と呼ぶのが一般的みたいです。その基準も明確ではなく、ぶっちゃけていってしまうと見る人の主観なんですね」
なるほど、つまり製造・点検・整備・保守などの作業を行う施設で、見た目の規模の大小で呼び方が変わるだけ。また一説によると「こうじょう」は工作設備のある施設や建物を指し、「こうば」は人が働く場所や空間を指すともいわれる。
■表面が波打ったようになってしまうのは、材料がビビったから?
「金属を削っているときに、職人さんが『わー、これ、めっちゃビビる』というときがあります。べつに怖がっているわけじゃなくて、ある現象が起こっていることを表現しているんです」
旋盤で金属を加工するときは、材料に刃を当てて削る。このとき「ビリビリ」と振動することがある。とくに細くてたわみやすい材料で発生しやすく、
「この材料は加工中にビビって困る」というようないい方をする。
ビビった材料は表面が波打ったようになる。そうなると不良品なので、納品できない。
ちなみに「ビビる」の語源は、平安時代にまでさかのぼるといわれる。戦(いくさ)で大軍が移動する際に、武将や雑兵らが身に着けている鎧がこすれて音が出る。その音が「ビンビン響く」ことから生まれた言葉で、やがて「震える」という意味に変化して、現代の町工場で生き続けているわけだ。
ちなみに「ビビる」は一般的に「こわがる」とか「怖気づく」という意味をもっているが、その語源はやはり戦からきているらしい。大軍が「ビリビリ」と鎧を響かせて押し寄せてくる音を聞いた敵が、恐れをなして逃げ出したことに由来するという。
■精度が大事だからトンボは禁止
「材料を貫通する穴をあけるとします。穴の深さは100mmですが、ドリル刃の長さが100mmに足りないときは、どうやってあけますか」
ふつうに考えると片側から穴を掘り、反転させてもう片側から掘って貫通させればいい。たとえるなら、トンネルを両側から掘り進めるような感じだ。
「そのやり方を『トンボ』といいます」
なぜ「トンボ」というか、諸説あるが、昆虫のトンボに由来する説がふたつあるという。
「ひとつは、トンボの姿が左右対称だから。もっとも、それをいってしまうと、ほとんどの生物に当てはまってしまいますけどね。もうひとつは、トンボは飛行中でもくるりと180度反転するからといわれています」
トンボをやると、材料を反転させた際にわずかなズレが生じる。そのため、精度を追及したい加工では、図面にわざわざ「トンボ禁止」という注釈が書きこまれる。
「0.01mmのズレでも、指先でなぞったら感触で分かりますよ」
■「バリ」「かえり」は完全に除去しないと安全と精度に悪影響が出る
身近なところで例をあげると、砥石で包丁を研いだとき、刃先に薄皮みたいな金属片が発生する。それを「かえり」というが、金属を削り加工した際にも発生する。
「工場でも『かえり』といいますが『バリ』とも呼びます」
これを放置すると手を切ってケガをしたり、それが機械の部品だとバリが邪魔をして組み立てができなったりすることもあるので、バリを除去する作業は必ず行われる。図面にもよく「バリ不可」と書かれているという。
ところで現場では「バリ」と「かえり」のどちらが主流なのだろう?
「よく『これのバリ取りしといてや』なんていいますから、『バリ』のほうが多いですかね」
ちなみに「バリ」とは、「ギザギザ」とか「いが」を意味する英語の「Burr」のカタカナ表記で、1970年代から少しずつ現場に浸透していったようだ。それ以前は、やはり「かえり」といわれていた。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)