なぜか「日本一長い商店街」に古書店が大集合 大阪で古書を訪ねるブックツーリズムが人気
「日本一長い商店街」といわれる大阪・天神橋筋商店街。その3丁目周辺に古書店が集積しているのをご存じだろうか。20年ほど前から集まり始め、天神橋界隈で10店舗、中崎町を含めた北天満一帯では17店もある。アマゾンなどネットでの注文販売が主流になる中、最近ではブックツーリズムとして人気だという。読書の秋、新たな発見を求めて、ぶらりと歩いてみた。
なるほど、ウワサ通りだ。天神橋3丁目商店街に入り、しばらくすると路面の古本屋さんが次々と目に飛び込んでくる。「栞書房」「矢野書房」と続き、斜め向かいには「天牛書店」が見える。さらにイベントスペースの「天三おかげ館」の裏手2階には「ハナ書房」「杉本梁江堂」と、この一角だけでも5店。さらに、近くには「ジグソーハウス」「フォルモサ書院」「書苑よしむら」もあった。
東京の古書街、神保町ほど密ではないにしろ、なぜ、「天三」にここまで古書店が集まったのだろうか。天神橋3丁目商店街振興組合の理事を務め、大阪府古書籍商業協同組合元理事で「矢野書房」を営む矢野龍三さん(64)が切り出した。
「オープンしたのは20年ほど前。修業した古本屋さんを辞め、独立しようと場所を探していたところ、ここに行き着きました。人通りが多くて、賃料がそれほど高くないということが決め手でした」
その後は、自然発生的に増えて行く。2000年には明治40年(1907年)創業の老舗で、あの織田作之助の小説「夫婦善哉」にも登場する「天牛書店」が天神橋店を開店。ますますパワーアップしていった。
「2、3年たって、立地がいいことから大阪古書組合の後輩も開店しました。東京の神保町でもそうですが、古本屋さんはいろんなジャンルの店が集まった方が何かとメリットがありますから。競合してしまうラーメン店とはそこが違います」
大阪の古本店と言えば「阪急古書のまち」が浮かぶが、こちらは大阪大空襲で焼失した古書店街を復活させようと阪急電鉄が出店を募り、1975年に開業したものだそう。最近ではこの古書のまち→老松町の骨董街→天神橋の古書店を巡るコースが散歩道として定着し、ちょっとしたブックツーリズムとして人気になっている。
「退職された方など年齢層は高めですが、最近は女性も増えています。周りには、食べ物屋さんや喫茶店もたくさんありますから食べ歩きしながら本を探すには最適かもしれませんね」
そう話す矢野さんの店では隣にジャニーズの中古グッズを扱う「ジャニランド」もオープンし、異彩を放っている。
「8年ほど前から委託されたものですが、店の前が華やかな感じにりました。娘さんはジャニーズ、お母さんは本屋さんに、というパターンを結構見掛けます。対象は違っても何かを見つけようとする気持ちは同じなんだなあ、と思いますし、そんな場面を見ると、こちらもうれしくなります。それが店頭の良さでしょう」
天三に集まった古書店は美術、建築、近代文学、ミステリー小説など特定のジャンルに力を入れ、それぞれ違いを出している。矢野さんは「値段もあってないような面もある。例えば、ある店で1万円のものが別の店では100円均一で並んでいる可能性があるのも古本の特徴」と言う。
美術書の品ぞろえが豊富な「ハナ書房」をのぞくと、ちょうどネット注文を受けた品を包装中だった。前ケ迫末男さん(67)はネット販売の便利さを認めつつ「作者もタイトルも分からず『ほら、あの、確か、あれ』みたいな会話からお目当ての本にたどり着いたり、思いもよらなかった本を棚から発見するのも対面の良さ」と話した。
もちろん、商店街の活気も見逃せない。「シャッター商店街」が全国的に増える中、早くから活性化に取り組み、空き店舗を利用して日本初の商店街が運営する「てんさんカルチャーセンター」を開設。いまは「天三おかげ館」に受け継がれている。上方落語の定席「天満天神繁昌亭」もあり、賑わいを下支えしているのは間違いない。矢野さんが言う。
「天神さん古本まつりは35年続いています。本を探しながら天満宮に参拝するのは自然なルートになっています。デジタルでの購入が増え、確かに店頭販売は難しくなっていますが、作用もあれば反作用もある、ということでしょう。アナログも生き延びていけるのではないでしょうか。本は腐らないので、時代が回って再び求められることもあります」
大阪古書組合(中央区粉川町)では毎月1回即売会を実施しており、11月は20、21日を予定。年末には梅田の阪神百貨店で古本イベントも実施する。
いつか、どこかで。読書の秋。人生を変えるような、思いがけない本が見つかるかもしれない。
(まいどなニュース特約・山本 智行)