「もののけ姫のオープニングみたい」プロも“写欲”を忘れた…いにしえの水墨画のような絶景が話題に
霧が立ち込めた山あいに朝日が差し込み、みるみる金色に染めていく-。まるで一服の水墨画かと見まごうような荘厳さ、そして、静謐(せいひつ)。そんな美しい写真が、ネット上で話題を呼んでいます。その光景は100回通っても見られない珍しいもので、撮影したカメラマンすら、「写欲(写真を撮る欲)を放置して眺めていたくなった」と振り返るほど。ジブリの「もののけ姫」のオープニングにも似たこの「奇跡の絶景」について、聞きました。
撮影したのは、京都写真家の歓喜団(@maaaaberaaaa)さん。元々文化財好きで大学時代に京都の寺社を巡るサークルに所属し、京都の四季の魅力に改めてとりつかれるとともに写真家の水野克比古さんらにインスパイアされ、10年ほど前から京都の四季を撮影しています。
件の写真は、京都府某所で先月末に撮影したもの。「この世のものとは思えない絵画のような絶景。本年度の最高傑作間違いなし」などとツイートしたところ、「水墨画の屏風を見ているよう。完璧な芸術作品ですね」「もののけ姫の最初の場面のよう」「幻想的でなんだか感動が止まりません」などと賞賛の声が相次ぎ、3.8万以上のいいねが寄せられています。
-この場所にはどれぐらい通われたのですか?
「通い始めたのは、10月半ばからで、2週間ほど通いました。僕たちのような『京都写真家』は歳時記に合わせて撮影をするので、年間スケジュールや撮影場所がある程度固定化されています。ですから、時にルーティンから外れた、普段と違う景色を撮りたくなることがあり、この場所を選びました」
-「100回通っても見られない人もいる」そうですが、「運良く4回で出会えた」と。
「はい。過去3回の撮影では、空が良くても霧が発生しなかったり、その逆もあったりして、なかなか条件が揃わなかったのですが、日の出直後からシャー(薄命光線)は出なかったものの、その後激変することがありました。なので、今回も待ってみなければ分からないと思い粘ってみました。それに11月3日からは紅葉撮影が本格化するので、霧撮影に時間が割けなくなります。この日が最後のチャンスだったので、粘ってみました」
-写真だけでも荘厳ですが、実際に目の当たりにされると、また凄い光景なのでしょうね。
「この光景が見られた瞬間は…単純に通い詰めて良かったと思いましたね。現地では、この景色がワイドに広がっている感じで、写欲すら放置して眺めていたくなりました。時々刻々と霧の状態が変わるので、見ていて飽きませでした。
-「写欲」と言うんですね!霧がテーマの作品も多いですが、移ろう物を捉える魅力とは?
「霧は現実の風景を紗のべールで包み、普段見慣れた被写体を幻想絵画のように変化させます。神出鬼没な分、希少価値が高く写欲が湧きますね」
と話してくれました。歓喜団さんの他の写真も、写真というよりまるで絵画のような奥深さや“色気”のようなものが漂います。京都ならではのものもありますが、その魅力について「自然と人工美の絶妙な調和にある」と歓喜団さん。「その調和が織りなす一期一会の劇的な瞬間を即作品として固定できる点が写真の魅力です。写真は被写体(風景)との真剣勝負。風景は季節、時間、天候によって、こちら側の都合に関係なく、劇的に姿を変えます。そのため望んだ瞬間を撮るためにはある程度の読みが必要ですが、その読みが当たり、絶景をカメラに収められた時の喜びは言葉に表せません」と語ります。
さらに、場所の情報だけでなく花季や祭事といった歳時記の知識も必要といい、「写真を軸として、総合的に日本文化を学べるのも魅力の一つです」とも。日ごろから地図を見て気になった場所には足を運び、写真集のチェックや仲間、知人からの情報収集も欠かしません。
今回作品が話題になったことは驚きつつ、「誰しもがイメージする風景の彼岸なのかも」と歓喜団さん。「今後は、より抽象的・概念的で純化された京都写真を撮って行きたいです。私の写真は横山大観、菱田春草、川瀬巴水といった日本画家たちに影響を受けてきましたが、それと比肩できるとは到底思わないものの、可能な限り絵画のような世界を写真で表現してゆきたいですね。もちろんそう簡単に撮れるものでは無いのは承知の上です…。あと、折角なら写真展もやってみたいです(笑)」
コロナ禍で再評価されているマイクロツーリズム。折しも錦秋の頃、身近な場所にまだまだ隠れている驚くような絶景に心を向けてみるのも、素敵ですね。
(まいどなニュース・広畑 千春)