配達に来たのにお客さんが留守…ならば「カウントダウンタイマー」発動!<おもしろ業界用語・フードデリバリー編>
外出する機会が減って逆に増えたのが、フードデリバリーサービスの需要。ロゴ入りの巨大なリュックを背負って、自転車や原付バイクで街を走る姿をよく見かける。一見、一匹狼で活動しているように見える配達員にも、業界用語がしっかり存在するという。
■業務の基本は商品を「ピック」して注文者に「ドロップ」
配達員を始めて約1年というDさんによると、配達員は個人事業主という扱いで運営業者に登録され、他の配達員とのリアルな交流はほとんどないという。
「それでも、SNSでいろんな情報を発信している人がいますから、いつの間にか自然に覚えるものですね」
飲食店から注文者へデリバリーをするサービスが日本で開始されてから、まだ数年しか経っていないが、どんな用語が生まれたのだろうか。
「お店まで商品を取りに行くことを『ピック』といいます。それを注文者に届けると『ドロップ』となるわけです」
ちなみに自分が今いる場所からお店までの距離が長いときは「ロングピック」という。ピックのための移動時間は報酬に反映されないため、ロングピックを嫌がる配達員は多い。逆に商品を受け取った店から注文者へ届けるまでの距離は報酬に反映されるため、「ロングドロップ」という長めの配達距離が好まれる傾向があるという。
「ただし、わざと遠回りして距離を稼ぐのは禁止です。バレたら『あかBAN(ばん)』といって、配達員のアカウントを停止されてしまいます。語源がよく分からない用語です」
前述したように配達員は個人事業主扱いなので、「あかBAN」を食らうことは事実上の契約解除となる。
ほかに「あかBAN」の対象になる行為として、「セルフピック」「登録と異なる車輛を使って配達する」などがある。
「商品を自分で注文して自分で受け取る行為を『セルフピック』といいます。また配達員のことを配達パートナーと呼ぶのですが、パートナー登録するときに、配達に使う車輛も一緒に登録します」
125ccを超えるバイクを使う場合には貨物自動車運送事業法が適用されるので、いわゆる緑ナンバー(事業用自動車)の届け出が必要だ。だから登録上は自転車を使うことになっているのに、趣味で乗っている400ccバイクで配達するような行為は、契約違反であると同時に法令違反にもなる。
■注文者と出会えないときは「カウントダウンタイマー」で10分待つ
「ウソみたいですが、配達先に注文者がいないときがあります。配達先に自宅を指定されているのに、商品をもって行ったら留守なんですよ」
そういう事例がしばしば発生するというが、どう対処するのだろう?
「『カウントダウンタイマー』というのがありまして、これが作動して10分待ちます」
配達先に注文者が現れず連絡もつかないときは、専用アプリで「カウントダウンタイマー」が作動する。
「これで10分経っても注文者と出会えなかったら、配達を終了したことにできます」
この場合、せっかく運んできた商品はどうなるのか。
「捨てろとはいわれません。『処分してください』なので、自分で食べてもいいです」
連絡がつかないのは注文者の不手際とされ、代金は注文者に請求される。
注文者が発注をキャンセルするばかりでなく、配達員が一度受けた注文をキャンセルする場合もあるという。
「注文の受け手がキャンセルするので『受けキャン』といいますが、その多くは配達が物理的に不可能なとき起こります」
・ピックに向かう途中で車輛に不具合が発生して走行不能になったり、配達員の体調が悪くなったりしたとき。
・注文の品が大量にあって1人で運べない。
・ピックする店に着いたけど待ち時間が長すぎる。
止むを得ない事情があるとはいえ、何度も繰り返すと「あかBAN」になるリスクがあるらしい。
■ 代金を踏み倒して逃げる「持ち逃げ」
「トラブルでいえば『持ち逃げ』というのがあります」
商品と引き換えに現金を受け取る「現金配達」で、商品を受け取った注文者が代金を踏み倒して逃げてしまうことがあるらしい。せいぜい数百円~数千円の代金を惜しんで窃盗犯の汚名を着なくてもいいのにと思うけれど、稀に発生するという。
「持ち逃げを防ぐには、注文者の本人確認と、代金を受け取ってから商品を渡す基本動作を徹底するしかありません」
ところが困ったことに、配達員による「持ち逃げ」もあるそうだ。商品をもったまま配達しないでキャンセルすることも「持ち逃げ」という。このような行為は即「あかBAN」になる。
最後に、配達員が背負っている運営業者のロゴ入りリュックサックは、必ず使わないといけないのだろうか。
「原則として自由で、自前のバッグを使っていいという建前になっています」
しかし、自前のリュックで保温や保冷が不十分だったらクレームになる。また、ピックに行った店で配達員だと分かってもらえず、商品をなかなか渡してもらえないことがあるため、企業ロゴ入りの公式リュックを使うほうが仕事はやりやすいという。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)