8畳2間に犬164頭と人間が暮らす最大級の多頭飼育崩壊 1頭の捨て犬を飼い始めたのがきっかけ
島根県出雲市で、日本の一般家庭では最大級の犬の多頭飼育崩壊が起きました。事の発端は、1頭の捨て犬を拾って飼ったら妊娠して出産したことに始まります。公益財団法人「どうぶつ基金」(兵庫県芦屋市以下、どうぶつ基金)は島根県行政から要請を受け、不妊手術などの獣医療を実施予定、そのための寄付を募っています。
■一般家庭における、史上最大級の多頭飼育崩壊
2020年10月、一般家庭で8畳2間に犬が164頭、人間も一緒に暮らしていたという事実が発覚しました。しかも崩壊したのは、ブリーダーではなく一般家庭だということも衝撃です。
この家族は、1頭の捨て犬を飼い始めました。その後、その犬が妊娠して子犬が産まれたのです。不妊手術の知識がまったくなかったわけではなく、最初は不妊手術をしたのですが、経済的に立ち行かず断念、一方で犬はどんどん増えていくので、お手上げ状態になったそうです。
どうぶつ基金が現場を視察したところ、糞尿が重なった床、縁の下、ベッド、台所、棚、いたるところに犬たちが立体的にひしめき合っていたそうです。庭の地面は糞尿の泥状態、痩せた犬が排泄物を食べて生き延びていました。なんと飼い主は、この家で食事や洗濯をして、職場に出勤していたというので驚きを隠せません。
飼い主に犬への愛情がなかったのかというと、そういうわけではなく、てんかんや乳腺腫瘍などの治療も受けさせたり、名前もつけたりしていて、犬に対する愛情も感じられたそうです。
■不妊手術などの獣医療を実施するための寄付を募集
行政から緊急救済要請を受けたどうぶつ基金は、犬の不妊手術、ワクチン、ノミダニ駆除を無料で行うことを決定いたしました。出雲保健所の特設会場で11月10日から3日間にわたり、「どうぶつ基金」の獣医師チームがすべての犬に対し、不妊手術、ワクチン、ノミダニ駆除、その他の獣医療を無料で行うことになりました。その後は、地元ボランティアさんたち(アニマルレスキュードリームロード)が時間をかけて新しい家族を探すことにしています。現在、同基金では、164頭の犬を救うための緊急支援物資と寄付を募集しています。
どうぶつ基金は、「きっと、最初は犬好きの普通の家族だったでしょう。早い段階で不妊手術さえしていれば、今も普通の家族で犬と穏やかに暮らしていたであろうことが残念です。飼い主さんはとても反省しています。私たちは、この機会に生活環境の改善をして犬たちを里親に出し、ヒトも犬も普通に暮らしていけるように、元に戻してあげたいと考えています」と言います。
■行政が動物と飼い主の支援に乗り出す
また、どうぶつ基金の佐上理事長は、以下のように語っています。
一般家庭の8畳2間で犬164匹は、多発する多頭飼育崩壊のなかでも史上最大、最悪のケースです。犬の多頭飼育崩壊のための不妊手術で、公益財団が保健所の施設を使用するのも日本初のケースです。 これまで行政は「飼い主のいる犬や猫のために税金を投入できない」、行政にできるのは「飼い主から有料で引き取り犬や猫を殺処分をするだけ」と、犬や猫に不妊手術をして里親を探し生きさせるという選択を拒否してきました。
飼い主は、保健所に相談すれば殺処分されると考えて相談できず犬や猫はさらに増え続ける…という悪循環が繰り返されてきました。 しかし、全国で発生する多頭飼育崩壊のあまりの多さに、ついに環境省は10月15日、自治体向けガイドラインの骨子案を有識者検討会に示しました。そのなかで、動物愛護部局だけではなく社会福祉部局とも連携し、動物と飼い主を同時に支援するよう促しています。 動物愛護部局は動物の引き取りや不妊手術などを手配し、社会福祉部局は精神科医や地域包括支援センターなどと連携して飼い主を支援するということです。
多頭飼育崩壊の犬や猫は人間の無知や無策の被害者であり、被害者が殺処分されることは許されません。 今回の案件は、どうぶつ基金と地元ボランティア、行政が協働して犬もヒトも幸せに生きる道を追求します。 保健所がどうぶつ基金のような公益法人に処置室を提供し、多頭飼育犬の不妊手術を行う日本初のケースとなります。 今回の一斉不妊手術事業が、今後の良きケーススタディとなることを願っています。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)