豊田真由子「日本はアメリカの子分ではない」 バイデン大統領が誕生しても、ブレない軸が大事

 アメリカ大統領選挙が行われました。そこから見えてくる根底にある問題を、考えてみたいと思います。

■米国社会の溝と不安

 今回の大統領選挙を巡る民衆間の激しい対立、そして、この4年間の「迷走」を経験してもなお、トランプ氏が依然として、投票者の半数近くの支持を得た、ということの意味を考えれば、米国の分断の根幹は、この先も、深く長く残り続くと言えるでしょう。白人至上主義や差別・排外主義、自国第一主義などは、トランプ氏が新たに作り出したというよりも、こうした主義主張や、様々な不満・不安・怒り(正当なものかどうかは別として)というものが、米国社会に厳然として存在し増加し、トランプ氏がそれにうまく乗っかり利用し、さらに増幅させてきた、ということだと、私は考えています。

 バイデン氏が大統領になったら、米国は“良い”方向に変わっていく、という見方は、楽観に過ぎるのではないでしょうか。もちろん米国政府の方針は、経済格差の縮小、国際協調主義への復帰、環境問題への対処等、様々に是正を図るでしょう(ただし、ねじれ議会で実現は容易ではないかもしれません)が、米国社会の深い溝や、それを生みだした人々の感情は、簡単に解決できるものではないのです。

 わたくしは、米国在住時、白人が、アフリカ系やヒスパニック系、アジア系(わたしたち日本人を含みます)の人々に対し、(意識的か無意識的かは別として)差別的な態度を取る場に直面したことが、残念ながら度々あります。この不条理な世界に解決を、と考えるとき、その溝の大きさと闇の深さに、暗澹たる気持ちになりました。

 出発点は、「事実」を直視し分析し、その上で、なにをどうしていくべきか、を考えることではないかと思います。

■日本は米国の属国ではない

 メディアには「米国の大統領が変わったら、日本にどういう影響があるか?」という論調が多いと思います。もちろん、それを考えることは重要ですが、必要なのは、何につけ、まず日本としての理念や方針の核というものがあり、それをベースにして、相手の出方によって対応を考えるということのはずです。

 今秋、とある番組でご一緒した日本駐在のヨーロッパの方が「(自分の国から見ると)日本はアメリカの子分的イメージ」とおっしゃっていて、「うわぁ、それ、言われちゃったよ…」と思いました。そうなんですよね、それが根本的な問題なのです。残念ですが、自分たちも相手からも、周りからも、日本はそう思われているのです。

 20年も前の話になりますが、米国留学時に、大学院でジョセフ・ナイ教授、フォーリー駐日大使等による日米関係のパネルディスカッションが行われ、わたくしは「日本は、“アメリカの51番目の州”と揶揄されるくらい、米国の属国のような扱いにあるが、これは日本にとっても米国にとっても、よいことではないと思う。どう是正していけばよいと考えるか?」と質問しました。そのときのパネラーの方々や学生たちの反応が、まさに「うわぁ、この人、言っちゃったよ…」でした。「『皆がそう思っているけれど、口に出さないことで、なんとなくごまかし続けている』ことだし、そこに正面から切り込んでも、解は引き出せない」と私は理解しましたし、その場にいた同級生にも、そう言われました。

 また、外交官として欧州に駐在していたとき、国際会議に対応するにあたり「米国や欧州の主要国の意向・動向を見ながら、(日本は)適宜対処する」という、本国からの指示を受けるにつけ、我が国の外交下手、国際社会での振舞いにがっかりし、なんとか自国のプライドとオリジナリティをと、対応に腐心したことを思い出します。

 世界のパワーバランスは様々に変わっていきますが、どんなときにも有用であり大切なのは、自国としてのしっかりとしたブレない軸と方針を持ち、毅然とした対応をすることです。それがなければ、彷徨うことになりかねませんし、他国からの信頼も得ることはできません。

(もちろん、わたくしは、愛する自国を卑下しているわけでは全くありませんし、日本を重要と思い、評価してくれている国も人も、たくさんあります。それを踏まえた上で、です。)

  ◇   ◇   ◇

 自由・平等、民主主義、国際協調主義を基盤とした様々な国際的な枠組み --人類が長年の苦難の歴史の上に築き上げてきた、こうした価値は、決して当たり前に存在し、そして続いていくものではない、と気付いた今こそ、私たちは、こうした価値を守り続けていく不断の努力を、改めて、していかなければならないだろうと思います。それは必ず、日本を、そして、世界を、“良くしていく”ことに、つながるはずです。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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