退職金の受け取り方、「一時金」or「年金」どちらが有利なの?
退職金の起源は江戸時代の商人たちの世界における「のれん分け」だと言われている。年季奉公を勤め上げたところで独立開業にあたり、主人からまさに「暖簾」を受け継ぐことになる。のれん分けがあると思えば勤労意欲も湧くし、年季が明けても失業しなくて済む。
また、分家が繁盛すれば主人の評判も上がり、少なからず主人もメリットを享受できる。この制度を元に、時の経過とともに独立支援金や長年の奉公に対する報奨を意味する金銭に変わっていったと考えられ、いまの退職金制度に通じている。(「退職金の話」(日経文庫)藤井得三)
現在では定年退職を迎えて、それ相当の退職金を手にするわけであるが、勤務先によっては、年金型の受け取りを選択できるケースもある。この退職金、「一時金」で受け取るのと「年金」で受け取るのではどちらが有利なのだろうか?という質問をよく受ける。
基本的な考え方は、「一時金」を優先すべきだ。というのは、まず税制面のメリットが大きい。退職金に対する課税は、退職金額から退職所得控除額を控除し、さらに二分の一した額を退職所得として、他の所得とは分離して税率を掛けることになる。この「退職所得控除」の額が勤続年数に応じて増えていく。
例えば勤続20年で800万円、40年ならば2200万円の非課税枠となる。この控除額の範囲なら所得税も住民税も課税を受けないし、また退職所得は社会保険料に影響をしない。年金型で受け取ると公的年金と合算して雑所得の扱いとなるため、所得税や住民税、さらには健康保険料の支払額に影響を及ぼす。
年金には運用利回りが受取額に加算されるメリットがあるが、コスト高になることに留意しなければならない。少なくとも、「退職所得控除」の金額はフルに活用するように一時金受取りにして、併用が選択できるのであれば残額を年金型受け取りにすることも検討されてみてはいかがだろうか。
年金にも「公的年金等控除額」という非課税枠があり、公的年金を65歳から受給するとすればそれまでの間は非課税枠を使わないことになるが、退職金を年金型で受け取る場合、この非課税枠を活用することが可能になる。
ところで、武士の世界では退職金は存在したのだろうか。実は、明治維新~廃藩置県の過程で家禄を奉還する代わりに家禄の数年分が一時金(または債券)で支給されたという。これは武家社会が終焉を迎えるにあたっての武士に対する退職金と考えられないか。そしてこれを元手に商売などに手をだして失敗する元武士が相次いだようである。定年退職を迎え、退職金という大金を手にしてもけっして舞い上がってはいけない。いわゆる「2000万円問題」に振り回される必要はないが、堅実な老後の設計がなくては「退職金貧乏」に陥ることも考えられるのである。
(税理士・北御門 孝)