川のほとりに「日本一?小さい書店」がオープン 広さ1坪…“おひとりさま”が通う、隠れ家的本屋さん
今年10月、川のほとりにたたずむビルの最上階に“日本一?小さい”という書店「kamebooks(カメブックス)」(千葉県市川市)がオープンしました。広さはたった1坪(約3.3平方メートル)ほどのスペースというからびっくり! そんな狭いところで、なぜコロナ禍の今、書店を始めたのでしょうか? ということで、実際に書店を訪れ、店主の男性にお話を伺いました。
■最寄りの駅から徒歩20分ほど。レトロなビルの最上階に入居、狭い階段を上ると…
「kamebooks」は、最寄りのJR総武線・本八幡駅南口から徒歩20分ほどの江戸川沿いにある4階建てのレトロなビルに入居。入口から狭い階段を上がっていくと最上階にマスク姿の大柄な男性が立っていました。その男性が店主の吉田重治(しげじ)さん。「カメブックスにようこそ」と温かく迎えていただきました。吉田さんの後方には開かれた扉が。奥をのぞくと、壁際に本がぎっしりと並んでいます。
■壁際にぎっしり、新刊と古本など約1千冊! 大人1人入るのがやっと?
店内に置いている本は、新刊と古本など合わせて千冊ほど。主に、吉田さんが選んだものだといいます。小説や絵本、リトルプレス(自費出版)の本、大手の書店ではあまり置かれていないという“1人出版社”の本など、さまざまなジャンルが揃っているそうです。
とにかく店内は狭く、コロナ禍の今、ソーシャルディスタンスをとるためには大人1人入るのが精いっぱいのよう。そんな狭いスペースで書店を始めた理由や思いなどについて、書店横にある屋上に場所を移し、吉田さんにお話ししていただきました。
■平日は士業、副業で書店を経営 コロナで古本市が開けず…店主「思い切って店舗を持った」
--なぜ“小さい書店”を始めたのですか?
吉田さん「普段平日は社会保険労務士・行政書士として事務所を構え、仕事をしております。自営業の傍らもともと本が好きだったこともあり、3年ほど前から千葉県内で古本市を年に数回ほど開催していました。しかし、今年春以降、新型コロナウィルスの感染が広がり、イベントが軒並み中止になってしまって。私が主催する古本市もしばらくできなくなりました…今後も感染が拡大したら中止になるかもしれません。だったら、思い切って店を構えてみてもいいかなと思い店舗を持つことにしたんです」
--確かに、しばらく大きなイベントはできませんでしたからね。ただ、駅からちょっと遠くて何人も入らないような場所に書店を開いたのはなぜですか。
吉田さん「どうせやるならば、誰にも思い付かないような面白い場所でやりたいなと思って、この場所を選んだんです。最上階には屋上(共用部分)もあって、天気の良いときは東京側にスカイツリーも見えます。すっかり気に入りました。屋上につながる扉を開ければ、十分換気も可能ですし。また、基本的に1人予約制の書店ですので、他のお客さんと狭い空間で密になることはございません。また、こんなに狭い書店は聞いたことがないですから、おそらく『日本一小さい書店』でしょうね(笑)」
■1人予約制だから、「おひとりさま」でゆったりと本が選べる書店 親子も来店
--1人予約制。いわゆる「おひとりさま」で楽しめる書店というわけですね。
「そうです。お一人でゆっくりと本を選ぶことができます。これまで古本市に来ていただいたお客さまが多かったのですが。最近、メディアで紹介されるようになりまして、東京・神奈川の方面からもわざわざ足を運んでいただく方も増えてきました。もちろん、お客さまは近所の方が多いです」
--まだオープンして1カ月半過ぎですが、印象に残ったお客さまはいらっしゃいますか?
吉田さん「印象的だったのは、親子でいらっしゃたお客さま。それは、お母さんが小学生のお子さんに掛けていた言葉です。『お母さんとけんかしたとき、学校で嫌なことがあったとき1人でここに来て気分転換して帰ってくればいいよ』って。私もそこで、なるほどそんな場所になってもいいのかなと思いました」
■本を読まない高校生「面白い場所にあるから」と来店 店主おすすめの本を購入
--お子さんにとっても1人になれる時間って大切ですよね。それが書店でもいいわけで。本が好きになるきっかけにもなりそうです。
吉田さん「はい。近所のお子さんが、ふらっと来てもらっても大丈夫です。事前に予約をしていなくても、予約が入っていないときは入れます。もし先約があっても、少し待っていただいたり、出直してもらったりしています。本好きの方だけではなく、本があまり好きではない、読まないという方もぜひいらしてください」
--本があまり好きではないというお客さまもいらしたことがあるんですか?
吉田さん「あります。男子高校生のお客さまです。うちの書店をインターネットで見つけたらしく、『僕は全然本を読まないんですが、面白い場所にあるなと思って来てみました』と言われまして(笑) 私がおすすめした本を購入されましたよ」
--すごい! 私たち親が「本を読みなさい」なんて子どもに口うるさく言うより、吉田さんの書店に子どもを行かせる方がいいかもしれないですね…ところで、今おすすめしている本を教えてください。
吉田さん「高校生には別の本をおすすめしましが、実は今私自身が短歌にはまっていまして…大人の方には短歌の本をおすすめしています。例えば、鈴木晴香さんの新鋭短歌シリーズ『夜にあやまってくれ』など。大学生の方も結構読んでいらっしゃいますよ。最近、学生さんもTwitterでつぶやくなど短歌をやられている方が増えているようです」
■短歌の本を一押し、カメ好きの店主「カメの甲羅のように安心して過ごせる場所にしたい」
--若い方の間で短歌が密かに?流行っているのは全く知りませんでした。「kamebooks」に足を運ぶと、新しい文化にも触れられそうですね。最後の質問となりますが、これから「kamebooks」をどのように運営していきたいですか?
吉田さん「私がカメが好きだということもあって、店名を『kamebooks』と名付けました。カメにとって甲羅(こうら)の中が安心できる空間であるように、これからもお一人でも安心して過ごせる場所にしていけたらと思います。店舗を大きくするつもりもなく、カメのようにゆっくりと歩んでいきたいですね」
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「kamebooks」は、11月22日(日)に千葉市の「HELLO GARDEN」にて「第10回西千葉一箱古本市」(午前11時~午後3時、雨天中止)を、29日(日)にはビル屋上で「第1回本八幡屋上古本市」(午前11時~午後3時、雨天中止)を開催予定です。
営業は、平日金曜日の午後7時~午後10時と土日の正午~午後5時。基本予約制ですが、営業時間内は空いていれば、予約がなくても入店は可能。また平日や営業時間外がご希望の方は、メッセンジャーまたはkamebooks1@gmail.com にご連絡を。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)