迎えたのは認知症が始まった年老いた保護犬…最期は飼い主の帰宅を待ち、腕の中で
奈良県に住むペットシッターの松岡さんは、東日本大震災で多くの被災ペットがいることを知り、保護犬を引き取ろうと決心しました。しかし、遠く離れた地域のため、それはかないませんでした。そんな時、近くの愛護団体で1匹の老犬と出会い、心を通わせました。
■夜泣き、徘徊…想像以上に大変な老犬との生活
ニュースで見かけた多くの被災ペットの姿に、1匹でも助けることはできないかと思った松岡さん。いろいろ探しましたが、出会うことができませんでした。しかし、近くの愛護団体を訪ねた時に「こんな子がいるのです」と紹介されたのが、すでに認知症の症状も出始めた老犬でした。
「他の子とは隔離され、1頭でいたこの子をみて、優しそうな子だなと思ったのです」。そして「吉之助」と名付けられていたシニア犬を引き取ることを決意しました。
しかし、いざ、家に連れて帰るとご主人の反対もあり、当初はかなり辛い時期もあったそうです。吉之助くんは食事を食べてくれず、また徘徊をするなど、予想以上の困難が待ち受けていました。
「一番大変だったのは来て数カ月後から始まった夜泣きです。朝まで泣き続けるのです。でも、私が責任をもって引き受けたのだから、とにかく一生懸命、心が通じるように接しました」
松岡さんがペットシッターというペットのプロであったこと、吉之助くんと出会う1年前に14歳で亡くなった愛犬の世話で老犬の扱いも慣れていたことなどから、吉之助くんも少しずつ環境に慣れてきました。夜泣きは獣医さんに相談し、お薬を処方してもらうことで抑えられていきました。
■帰宅を待ち最期は松岡さんの腕のなかで
「だんだん表情も柔らかくなってきて、うちの子になってくれたんだなって思いました」
そんな時、たまたま撮影した写真がペット写真コンテストで大賞を受賞しました。このこともあり、ペットシッターに加え、ペットカメラマンへの道も決意させてくれました。
吉之助くんとの生活は2年弱でした。短い時間でしたが、濃縮された時間だったと今、松岡さんは振り返ります。そして、吉之助くんが亡くなる時も奇跡が起こったそうです。
その日はどうしても休めない仕事が入っていました。朝に出掛ける時、松岡さんは吉之助くんにこう、語りかけました。「お願いだから、私が帰ってくるまで、待っていてね。絶対に」と。おそらく、もう最期の時は近いと感じた松岡さんは後ろ髪をひかれるように仕事に出ました。
急いで帰宅すると、吉之助くんはその約束を守ってくれていたのです。
「帰宅して抱っこしてあげると、私の腕の中で亡くなったのです。ちゃんと約束守ってくれたんです」
■思い出を抱きながら新しい保護犬を
吉之助くんが亡くなって8年。やっと新しい家族を迎える気持ちになった松岡さんは今年1月、シニアのジャックラッセルの保護犬を引き取ることにしました。
「本当は雑種の子犬を探していましたが、ご縁がなく、たまたま愛護団体の写真で見た子に引き付けられ、引き取ったのが、いま家にいる縁ちゃんです。まさに縁があったということから名付けました」
シニアといってもまだまだ元気ですが、繁殖犬だったため、おそらく外を歩いたことがなく、なかなか散歩ができませんでした。そこはペットのプロである松岡さん。根気よく屋外に慣れさせていき、今は少しずつ散歩ができるようになりました。
「私は穏やかなシニア犬が好きなので、こうしてシニア犬が健やかに過ごせることは私の幸せにもなっています。私が撮った縁ちゃんや吉之助の写真で少しでも何らかのメッセージを伝えることができればなと思います」。松岡さんは静かに話してくれました。
(まいどなニュース特約・山中 羊子s)