前脚を失っても…“Smile”を手に入れた猫のすみれちゃん 世話好きのやさしいお姉ちゃん猫に

 今から4年前、谷口貴美子さんは「どうしても猫が飼いたくて」神戸市内のペット可のマンションに引っ越しました。そして、初めて行った猫の譲渡会。そこには新しい家族との出会いを待つ猫がたくさんいたと言います。

「小さい子やかわいい子はすぐに里親さんが見つかるんだろうな、逆に柄の出方がちょっと残念だったり、ハンディのある子は難しいんだろうなと、そんなことを思いながら見ていました」(谷口さん)

 猫たちにはそれぞれプロフィールを記した札が掛かっていたのですが、その中の一つにこんな文字がありました。

『断脚しています』

 谷口さんが譲渡は難しいだろうと考えていた「ハンディのある子」です。名前は菫(すみれ)ちゃん。推定1歳半の女の子でした。断脚の理由は、保護されたとき右前脚にかなり時間の経過した骨折が見つかり、「肩から先を切らないと壊死してしまう」という獣医師の判断があったから。保護主さんは「これから笑顔(Smile)で過ごせるように」と願いを込めて「Smile→すみれ」と名付けたそうです。

「そういう子を求めて譲渡会に行ったわけではないのですが、一人暮らしの私でも飼えるならこの子がいいと思いました。案の定、ほかに希望者はいなくて、トライアルを始めることになったんです」(谷口さん)

 すみれちゃん(今は“ひらがな”にしているそうです)はあまり人馴れしておらず、しばらくは大変でした。

「私が寝る前に電気を消すまで一切ベッドの下から出てきませんでした。“ハンスト”もひどくて、1週間くらいまともにごはんを食べてくれなかったり。今となっては笑い話ですが、よっぽどお腹が空いたのか、夜中にゴミを漁ったこともありました。カニ味噌の缶詰に入っていた紙に強烈な匂いがついていて、食べられると思ったんでしょうね。紙ごと食べて飲み込めずに吐いてしまい、すぐ私に見つかって、またベッドの下に逃亡するという“事件”もあったんですよ」(谷口さん)

 通常、トライアル期間は2週間~1か月程度ですが、すみれちゃんはなかなか馴染んでくれず、谷口さんは心が折れそうになったことも。正式譲渡を決めるまでに2か月を要しました。

 そんなすみれちゃんも今では甘えん坊になりました。

「日中くつろいでいるとき私がそばを通ると逃げますが(苦笑)、夜、電気を消すと必ず足元に寄ってきてくれます。遅くなると『早く!寝るよ!』と言わんばかりに大きな声でニャーニャー鳴いて、私が寝落ちするまでそばにいてくれるんですよ。毎晩、私の顔にお尻を向けてくるのはちょっと複雑ですけど…」(谷口さん)

 右前脚がないすみれちゃんのため、ごはんや水を置く台の高さを工夫したり、顔の右側を“洗う”のが難しそうなので定期的に拭いてあげたり、肩周りをマッサージしてあげたり…心掛けていることはいくつかありますが、「本人はあまり気にしていなくて、かわいそうとか大変そうとか思わなくていいんだろうなって、いつも思います」と谷口さん。すみれちゃんはすべてを受け入れ、保護主さんの願い通り、笑顔で穏やかに暮らしているようです。

 昨年、すみれちゃんに“妹”ができました。厳しいノラ生活のせいか、ひどい歯肉炎で絶えずヨダレが出ていたまるちゃん。口の周りに食べかすがつきやすかったり、舐めた部分が汚れてしまうことがありましたが、そんなまるちゃんの体をすみれちゃんはやさしく舐めてあげていたそうです。「面倒見のいいお姉さんという感じでしたね」(谷口さん)。

 すべて“過去形”で書いているのは、まるちゃんが11月30日に急逝したから。谷口さんにとっても、すみれちゃんにとっても、本当に突然の出来事でした。

「すみれは世話焼きさんなのか、まるがごはんを食べているときにも体を舐めにいって、パンチされていることがありましたね。でも、寒い日は日の当たる場所を見つけて、そのスペースを仲良く折半して一緒に寝ていたり…。過酷な環境で育ったり、思わぬケガに見舞われても、その後に関わる人や環境でその子本来の良さがちゃんと出てくるんだってことを、すみれが教えてくれました」(谷口さん)

 まるちゃんはノラ時代に心無い人から薬品のようなものを浴びせられたり、タバコの火をつけられたこともありました。そんな壮絶な“猫生”を、すみれちゃんは分かっていたのかもしれません。すみれお姉ちゃんにやさしく体を舐めてもらったこと、きっとまるちゃんは忘れないでしょう。

(まいどなニュース特約・岡部 充代)

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