毎年思い出す失った我が子…ニンジンや石を抱く、切ない「偽育児」も峠を越え まだ神戸に残るパンダ・タンタン
中国へ帰ることが発表されたものの、コロナ禍ゆえその日程が決まらない神戸市立王子動物園のジャイアントパンダ、タンタン(メス、25歳)。いつか、もう間もなく…と寂しさを募らせていましたが、このほど日本での年越しが決定しました。ファンの間では突然の知らせに「クリスマスも!お正月も!!なんなら桜も??」と喜びと期待が急上昇していますが、いずれは来る「別れの日」を覚悟しつつ支え続ける飼育担当者に、今のタンタンの様子や思いを聞きました。
■あまり食べず、寝ている時間が長かったタンタン
夏頃から、あまり食べず、寝ている時間が長かったタンタン。これは「偽妊娠・偽育児」の状態といい、国内では、二度の妊娠をしたものの死産と出産後まもなく我が子を亡くしてしまったタンタンだけに毎年のように見られる様子といいます。子育てをしているつもりでニンジンや竹をなめたり、抱いたりし続けていましたが、秋の深まりとともにようやく食欲も出てきたのだとか。
-今回の“育児”は終わったんでしょうか。
「そうですね。ニンジンを抱いたりはしなくなりましたが、全くないわけでもなくて…。夜は竹を抱いたりするんですよ。もう、『抱き枕かい!』って感じもしますけど。ふと思い出したかのように抱くんです。全く抱かない時期もあるので、まだ偽育児は終わっていないと思います」
-切ないですが、抱いてばかりで食べない日が続くと体調が心配…
「そうなんです。だから、ニンジンの切り方も、普段は持ちやすいように細長い切り方なんですが、それだと抱きやすくてつい抱いてしまうので、偽育児の期間中はわざと小さく切るんです」
-屋外運動場の岩の上に小石が並べてありますが?
「タンタンが抱きやすい大きさのものを拾って、よけてあるんです。実際、抱いたこともありますし…。屋外で何か抱き出すともう寝室に帰ってこないと思うんです。集中してしまって、気温が高くなってもずっと抱いたまま動かなくなると、タンタン自身が危ないんです。だから、安全のため、抱きそうなものは取り除くんです」
-そうなんですね。タンタンは抱っこしている時、幸せそうにも見えますが…
「本人は育児しているつもりなので、幸せそう、というのはその通りかもしれませんね。でも、あまり長引かせるのも良くない。なるべく気持ちを切り替えさせてあげたいって思います。少しでも早く元に戻るように…と」
■タンタンのためだけに育てたタケノコ、初めて口に
そんなタンタンに、担当者らは特別なプレゼントを用意しました。園内で育て、今年初めて採れたタケノコです。
「秋から採れる『四方竹』という種類で、4年位前から植えて株分けしながら増やしてきました。おいしそうに食べてくれたと思います。うれしかったですよ。タンタンにあげるためだけに育てたものなのでね。今年になってから建物工事の都合で、最初の場所から植え替えたのでどうなるか心配しました。細いタケノコしか採れませんでしたけど、最後にあげることができて本当に良かったです」と吉田さん。梅元さんは「いつも届けてくれる神戸市北区淡河町のタケノコもあるのですが、もう季節も終わり。今は竹を食べてくれるようになって、ほっとしています」と微笑みます。
タケノコを夢中で食べる姿は来園者にも人気ですが、「タケノコは栄養価はありますがお腹がゆるくなるんで、やっぱり竹を食べてほしいですね」と梅元さん。思いは常に、タンタンの健康にあります。9月16日には25歳のお誕生日会が「無観客」で行われましたが、その時に出し忘れたとツイートしていたパンダ型クッキーも、11月に作り直してリベンジしたそう。
でも、梅元さんいわく、「氷で作った器に入れて出したんですが…鼻先でツンってしただけで。気に入らんかったんでしょうね。ベチャベチャになって終わりでした。まあ、しゃあないな、って感じで」。「せっかくしたのに受け入れてもらえなかったことなんて、いっつもです。思った通りになんてしてくれないですよ。決まった材料で限られた条件の中でできることをやってますけど…。もう、触ってくれた、見てくれた、ってだけで十分ですね。スルーされるのはさすがにちょっと辛いものが…」と吉田さん。
7月の契約期限が過ぎ、誕生日もお祝いできて、節目を一つずつ超えていき…帰ることは決まっている、でもまだいてくれる、という状況に、「飼育担当としての思いというと…んー、難しいですね。発表された頃の『そうか、帰るんか…』という感情とはまた違いますね、今は。ゴールがないのでね。日常が続く、それだけですね」と梅元さん。今のタンタンへの思いについて「それはもう、健康でいてくれるように、と。ここ数年ずっと思っていることですね。この子の健康、良い状態をいかに維持していくか、もうそれだけなんです」(梅元さん)「全く同じです。だって、それしかないじゃないですか」(吉田さん)と話してくれました。
二人からのメッセージは「タンタンに会いに来て笑顔になってもらえたら、ぼくらもうれしいです」。
最近のタンタンは晴れていれば午後3時ごろまで屋外に。平日は自由観覧なので並び直せば何度でも近くで見られます。土日祝日は事前申込が必要ですが、屋外にいる時間帯ならタンタンのいる場所によってはよく見えるので「隙間タンタン」も楽しめます。パンダ館の警備スタッフによると平日の観覧は、基本は1分間入れ替え制ですが、並ぶ人が少ない時は長くするなどして対応。「その日その時間に最善の方法でご覧いただけるよう努めています」とのこと。実は朝、タンタンから寄って来てくれることもあるそうで、「『おはよう』という感じに目線をくれて…かわいいですよ~」とこちらもすっかりメロメロ。だって、お嬢様を守る専属ボディーガードみたいなものですもんね。
園内の土産物店でも、一時は転売対策のため購入数を制限せざるを得ない状況もありましたが、最近はほぼ自由に購入可能。スタッフは、「『サンクスタンタン』のマグネットは大阪のショップスタッフが手作業で6千個も作って、手首を痛めそうなくらい頑張ってくれたんです。人気のパーカーは手畳みで、一つ一つ丁寧にご用意しています」とのこと。「タンタンと会った思い出といっしょにお持ち帰りいただきたいです」と話してくれました。
同園は現在、入園制限はないもののコロナ感染防止や、国内で発生が続く鳥インフルエンザ対応のため、臨時閉園になる可能性もあることを公式サイトに掲載。広報担当者は、ぜひ会いに来てくださいとは言いにくい状況と前置きしつつ「タンタンに会えるチャンスがまだあります。年末年始は事前申込が必要な日が追加されているので、ホームページでご確認を」と呼びかけています。同園は年末は12月28日まで、年始は1月2日から開園予定。
(まいどなニュース特約・茶良野 くま子)