寅さんの顔が浮かぶ柴又駅の「路線図アート」が設置1年を経てSNSで話題に…源公の感想は?
師走を迎えると、寅さんが恋しくなる。映画「男はつらいよ」シリーズの主人公で、故・渥美清さん演じる車寅次郎の顔をかたどった路線図のようなアート作品が、作品の舞台となる東京都葛飾区の京成電鉄金町線「柴又駅」のホームにあるとSNSで話題になっている。現場で作品を吟味した上で、同シリーズにレギュラー出演した俳優にも感想を聞いた。
京成金町線は、2.5キロの間に京成高砂、柴又、京成金町の3駅からなる路線。中間に位置する柴又駅の高砂駅行き上りホームに作品はある。縦約2メートル、横約2.5メートルの大きさで、チラ見程度だと路線図かと思うのだが、よく見ると、駅名ではなく、全50作の作品名と5人の登場人物の役名が記されている。さらに少し距離を置いて凝視すれば寅さんの顔が浮かび上がってくる。
とはいえ、このホームに作品が設置されたのは昨年10月のこと。実は1年以上もたっている。今年11月下旬に「柴又駅の路線図、寅次郎だった。 子供に言われなければ気づかなかった」というツイートをきっかけに、「すげー!!」「マジか!気づかなかったわ!!」「京成も粋なことするもんだね」「地元の寅さん愛感じます」といった投稿が相次いだ。
現場で接近遭遇した。10色の「LINE」(路線)の中に5作ごとのタイトルが配された全10線が、寅さんの顔を描くように循環している。顔に向かって左側に位置する第1作「男はつらいよ」(1969年8月公開)の地点からグルっと回って、昨年12月に公開された第50作「男はつらいよ お帰り 寅さん」が終着駅として、スタート地点近くに着地。まさに「お帰り」となる。
さらに、寅さんの右目じり部分に博(前田吟)と満男(吉岡秀隆)の父子、左目じりに寅次郎とさくら(倍賞千恵子)の兄妹、鼻部分に満男が恋心を寄せる泉(後藤久美子)と、登場人物の名が記されている。
他のレギュラー出演者でいうと、おいちゃん(車竜造=森川信、松村達雄、下條正巳)、おばちゃん(車つね=三崎千恵子)、タコ社長(太宰久雄)、御前様(笠智衆)、源公(佐藤蛾次郎)らの名はない。泉よりむしろ…と個人的には思ったのだが、それはきておき、作品に名前のなかった上記のレギュラー陣の中で、唯一存命の佐藤に作品についての感想をうかがった。
佐藤は記者が撮影した作品の写真を凝視しながら、当サイトの取材に「たいしたもんだね」と絶賛。源公を含め、寅さんの周りにいたキャラクターの名前がないことには「別になくてもいいんだよ」と笑った。その上で「いろんな人がいるんだね」と、ユニークな寅さん路線図を創作した作者のアイデアを称えた。
作品の左上に書かれたタイトル名「Tiger Railway」のロゴが阪神タイガースを連想させるのだが、それもそのはず、作者である鉄道設計技士の大森正樹さんは阪神タイガース路線図を制作したことでも知られる。
大森さんのメッセージは「50作という膨大な情報を分かりやすく伝えるため“路線図”のデザイン手法を用いました」などと作品横に記され、路線図とした意図について「寅さんはいつも鉄道で旅していました。50作が一筆書きで、一本のレールの上を巡り、そして戻ってきます」とつづられている。
「寅さんは鉄道で旅に出る」。その原点は柴又駅のホーム。そこに作品が設置されたことに意義がある。第6作「男はつらいよ 純情編」(1971年1月公開) では、ラストで寅さんが故郷を発つ時、柴又駅に見送りに来る妹・さくらとの「別れの会話」が名場面として語り継がれている。
京成電車に乗り込んだ寅さんに、さくらが「いつでも帰っておいでね」と声をかけるが、寅さんは「そんな考えだから、俺はいつまでも一人前に…。故郷ってやつはよ…」というところでドアが締まり、その先の言葉は聞こえない。
そんなやりとりの舞台となった柴又駅のホーム。師走の昼下がり、作品に浮かび上がった寅さんの顔と対峙しながら、あの途切れたセリフの先に思いを巡らした。
(まいどなニュース/デイリースポーツ・北村 泰介)