やぶの中で必死に鳴いていた小さな子猫 保護して家族の一員になったが…自問自答の日々
やぶの中から飛び出てきて車にひかれそうになった子猫を保護した。子猫は、すくすく成長し、ひとり息子の弟分に。幸せいっぱいだが時折、母猫が探しているのではないか、本当は外でのびのび暮らしたほうが良かったのではないか、という思いが脳裏をよぎる。
■やぶの中で鳴いていた子猫をレスキュー
2020年9月8日のお昼過ぎ、埼玉県に住む大多和さんは自転車で買い物に出かけた。少し離れた公園のそばを通りかかった時、突然やぶの中から子猫が飛び出してきて、目の前を横切ると車道へ飛び出して行った。車にひかれそうになったが、間一髪で子猫はUターンして、やぶの中に戻って行った。
道路はバス通りで車の通行量も多いため、大多和さんは心配になり、自転車を停めてやぶの中をのぞいてみた。手の平に乗るくらいの赤ちゃん子猫が必死にミャーミャー鳴いていた。母猫、兄弟猫とはぐれたのかもしれないと周辺を探してみたが姿はなかった。保護活動をしている人がごはんあげているかもしれないと形跡を探しても、それもなかった。子猫は、木の枝が生い茂り、チクチクしたやぶの中でずっと力を振り絞って鳴いていた。
たまたま自宅にいた夫に電話をすると急いで駆けつけてくれた。大多和さんが「どうする?」と相談する間もなく、夫は子猫を見るなりやぶの中に入って行った。子猫は怖がってウロウロしたが、なんとか保護できた。半袖短パンだった夫は傷だらけ。その後どうして良いか分からず、とりあえず自宅に連れ帰り、まずはミルクとごはんを与えた。
■ちょこくん中心、幸せいっぱい!
子猫は小さい身体でシャーシャー威嚇しながらも、少しだけ舐めてくれた。キャリーがなかったので大きなバケツに入れて動物病院へ。落ち着いてよく観察して見ると、目やにがついていて、毛もボサボサ、臭いもかなりあった。大多和さんは、実家で小型犬を飼っていたことはあったが、猫は初めて。右も左もわからず、病院帰りにペットショップに寄って必要な物を全部購入して帰宅した。
「この時は里親さんを探すつもりだったので、そのまま一式里親さんに渡すつもりだったんです。友人知人に声をかけたのですが、子猫と一緒に暮らすうちに愛しさと可愛いさが募って離れられなくなりました」
子猫がちょこまか動き回るので、小学生の息子が「ちょこくん」と名付けた。ちょこくんは、安心したのか保護した夜にはよく寝て抱っこもできた。無事成長したちょこくん。大多和さんは家にいることが多いので、家族と毎日たっぷり触れ合える。遊んで、食べて、寝て、暴れて、猫生活を満喫しているという。
好奇心の塊で、超がつくほどの甘えん坊。得意技はカーテンの昇り降りと靴下泥棒。「運動神経が良いので、野良ならモテモテだねと話しています(笑)」
■本当に保護して良かったのか、と自問自答する日々
ちょこくんを迎えて、ひとり息子は弟ができたと喜んでいる。家族の会話はちょこくんの話ばかりで、買い物に出てもちょこくんの物を買い、外出してもすぐに帰るようになった。家の中はちょこくん仕様に変化した。
「猫ちゃんを飼うのは楽だとよく聞きますが、全くそんな事ないです(笑)やんちゃで目が離せず大変ですが、家族の心を温かくしてくれます」
大多和さんはちょこくんを保護して以来、近所で猫を見かけるたびに「母猫がちょこくん探しているのかな?」と思ったり、柄が似ている猫を見かけたら「兄弟かな?父親かな?」という思いが頭をよぎったりする。保護した公園を通るたびに、「もしかしたらはぐれただけで、まだ母猫が探しているかもしれない」と、つい母猫探しをしてしまうことも。
「私たちが引き離してしまったかもしれないと思うことがあるのです。ちょこにとってこれが幸せだったのか、もしかしたらあのまま外で自由に暮らしたかったのかもと考えてしまいます」
何が正解だったのかは分からないが、大多和さんは、「私たちにできることは愛情たっぷり注ぐことしかない」と、ちょこくんを我が子のように可愛がっている。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)