デトックス、血液クレンジング、水素水…ぜんぶ「疑似科学」! 「考える」サイトから学んで賢い消費者に
説明しよう。グルコサミンは変形性関節症への治療効果は期待できないし、血液クレンジングがヒトに対して健康効果があるとする信頼できる科学的根拠はないのだ。巷には、科学の衣をまとった商品やサービス、言説があふれているから、エビデンス(根拠)を見極める目を養わないと、賢い消費者にはなれないぞ。えっ、Wi-Fi電磁波で学力低下を懸念する市議らが意見交換会を開いたという記事を最近読んだって? 心配無用だ。電磁波有害説は疑似科学なのだ。
といった明快なトーンで、疑似科学に関する科学的言説を評定しているサイトがある。明治大学科学コミュニケーション研究所が運営する情報サイト「Gijika.com」(ギジカ.コム)だ。
疑似科学とは、科学を装っているにもかかわらず、実際には科学的根拠が薄弱な主張・商品などの総称で、消費者の適切な選択を阻む問題になっている。サイト運営には、研究所を主体に認知科学や科学リテラシーなど専門家が参加し、データの客観性や再現性など10の条件を踏まえ、科学、発展科学、未科学、疑似科学、判断保留で評定している。
家電メーカーも参入し、一世を風靡したマイナスイオンブームを覚えているだろうか。イオンという言葉がもたらす科学的な印象からか、多くの消費者は「身体にいいことが証明されているのでは」と考え、マイナスイオンを噴出するとされるヘアドライヤーや空気清浄機が売り出された。ギジカ.コムは、「マイナスイオンは疑似科学」と結論づけ、以下のような総評を掲載している。一部を抜粋する。
・ブームによって多くのマイナスイオン製品が生み出されたものの、販売戦略が先行しすぎたことによって消費者に混乱をもたらした
・効果を支える科学的知見が不在のまま、技術応用されることの問題がマイナスイオンでは顕著に表れていた。
・これまで主張されてきたほとんどすべてのマイナスイオン効果は否定されている。すでにブームは去ったとはいえ、未だに多くの商品が販売されているため注意が必要である。
ギジカ.コムのサイトは現在、30テーマの科学性の評価をアップ。ブルーベリーエキス、EM菌、デトックス、ゲルマニウム、水素水、牛乳有害説などを疑似科学と評定している。同研究所の研究員で情報コミュニケーション学が専門の山本輝太郎さんに尋ねた。
-商品の効能をアピールする企業側のセールストークを消費者はどう受け止めればいいのでしょうか。
「いわゆる健康食品の制度に関しては、日本では特定保健用食品(トクホ)や機能性表示食品があり、そうした制度を活用している健康食製品は科学性をうたう『最低限』の要件は満たしていると思われます」
「ですが、トクホと機能性表示食品の間にも科学的根拠という意味では大きな差があります。トクホはヒトでの実験が必要ですが、機能性表示食品ではレビューに基づく論文引用でOKです。トクホでは消費者庁の厳密な審査がありますが、機能性表示食品ではそれがありません。
-前者には国の一定の担保がありますが、後者はいわば企業に委ねている、と。
「消費者は『機能性表示食品であるからすごく効く』というより『最低限の要件は満たしている』と考えた方が無難です。そうなると、機能性表示食品すら取得していない製品の科学的根拠はいっそう厳しめに見るべきでしょう」
-より実践的なポイントはありますか。
「提供データの質を見極め、科学的根拠の強弱も推し量れる、エビデンスレベルという考え方があります。データの信用度の強さを研究デザインに基づきランク付けしたもので、ランクが上位なほど強い因果関係の推定が可能になります。例えば医学分野のランダム化比較試験(RCT)は、被験者を、効果を検証したい薬などを投与する実験群と偽薬(プラセボ)などを飲ませる対照群にランダムに配置して実施します」
-…難解です。
「ヒトを対象とした分野では、研究デザインによってデータの信用度が大きく変わる、ということです。例えば、私たちが疑似科学と評定している牛乳有害説を例にすると、『牛乳は有害だと主張している科学者がいる』という事実があったとしても、それがデータに基づかない専門家個人の意見であれば、科学的根拠として相当弱く、エビデンスレベルは低い。またサプリメントでよくみられる『三た論法』にも注意が必要です。『飲んだ→効いた→治った』という愛好者の声が紹介されますが、飲んでも治らなかった場合、飲まなくても他の要因で治った場合も想定してください」
-疑似科学にもかかわらず、聞く耳を持たない人もいます。
「ネットでの情報収集が盛んな現在、自分の信念に沿った情報のみ受け入れる確証バイアス、自分の考えに沿った意見に触れることで信念が強化されるエコーチェンバー効果などの影響が深刻と考えられます。Gijika.comの前身サイトを始めた2014年当初は、『コミュニケーションの次元で疑似科学の問題が解決できる』と考えていましたが、なかなか難しいことが分かりました。そのため、まずはある程度のリテラシー(科学リテラシー、情報リテラシー)の向上が必要と考え、現在はそうした方面での研究展開に力を入れています。サイトにあるオンライン教材はその一環です」
-新聞記事でも時折、EM菌の言葉を見かけます。
「メディア側の科学リテラシーの重要性が増している時代であると考えています。従来、マスメディアの多くでは科学に関する話題として、珍しいものや新発見、これまでの常識(科学的知見)を覆すことなどを強調していた傾向にあったと思います。現在の科学の知見は仮説と検証の繰り返しによって積み上げられ、蓄積されてきたものです。そのため、従来知られている知見から著しく外れた主張については注意が必要だという認識は持った方がよいでしょう」
-これまでどんな反応反響がありましたか。
「前身の『疑似科学とされるものの科学性評定サイト』を含めると、一般からは『サイトを見せることによって身近な人間を説得できた』などのコメントがあります。一方、水素水やEM菌など、かなり厳しい評定結果を載せている項目の関係者や団体からは抗議やクレーム、内容証明郵便が届いたこともあります。ただし、サイトの試みを好意的に捉えてくれる業界団体や関係者も一定数おり、実際に直接相談や講演依頼を受けたりすることもあります。同じ業界においても、一部の疑似科学的商品や言説のふるまいに困っている方や企業はかなり多いのではないかと感じています」
-最近では「Wi-Fi電磁波で学力低下を懸念、市議ら意見交換会」という見出しの記事がSNSで話題になりました。
「Gijika.comの電磁波有害説のページアクセスも増えているようです。電磁波に対する忌避や懸念は結構古くからあり、そのため、これまで疫学研究中心にかなりの知見が蓄積されてきました。また、アカデミアのほうでも啓発活動が行われつつあるようですが、電磁波を過剰に恐れる信念傾向はまだ根強いようです。疑似科学は、政治家や学校教育関係者などを発端に問題化することも多いので、オピニオンリーダーの方々の科学リテラシー向上は、社会的に一つ大きな課題だと思っています」
(まいどなニュース/神戸新聞・竹内 章)