LiLiCoや鶴見辰吾も絶賛の映画『レディ・トゥ・レディ』…SNSでジワジワ話題、令和の『Shall we ダンス?』
「がっつり心揺さぶられた」「魂ふるえた」「絶対観た方がいいやつ」「上映回数を増やして」。東京都内ではたった1館、しかも1日1回のみの上映という厳しい状況ながらも、現在公開中の映画『レディ・トゥ・レディ』が口コミを中心にジワジワと話題になっている。
メジャー映画でもないし、若手人気俳優やスター俳優が出演しているわけでもない。しかし観客からは「観たらビックリ!あなどっていた」という驚嘆の声が製作陣に届いているという。一部では令和版『Shall we ダンス?』とも評される『レディ・トゥ・レディ』とは、一体どんな作品なのか?
テレビ番組の企画で競技ダンスに挑むことになった、売れない女優の一華(内田慈)。男性パートナーを探すも、なかなか見つからない。そんな折、中学の同窓会で友人の真子(大塚千弘)と久々の再会を果たす。2人はジュニア時代に競技ダンスのペアを組んでいた過去がある。しかし卒業と同時に男女ペアに切り替えなければならず、それ以来ダンスとは遠ざかっていた。一児の母で主婦として生活に追われる真子だったが、一華に押し切られる形で家族に内緒で競技ダンスを再び始めることに。
性格も置かれた環境も真逆の二人。ダンスレッスンはブランクも相まってまさにドタバタ状態。だがかつて好きだったダンスで再び心が通い合い、冴えなかった日々にも彩が生まれていく。そして迎えた大会当日。ところが出場は叶ったものの「女子同士ペアは前代未聞!男女ペアでなければ認めない!」と審査ではじき出されてしまう。二人のダンスは、性差、常識、慣例を乗り越えることができるのか?
■リード&フォローの概念を人間関係に置き換えて
女性同士の競技ダンスペアを通した人間ドラマという主軸の周囲には、「パワハラ」「セクハラ」「忖度」という今日的な社会問題も散りばめられる。女性同士ペアをどう着地させるのかと思いきや、“自分らしく生きるには?”という性別を超えた個人としての問いに集約。間口を広くするバランス感覚がいい。
「私たちは好きだから踊っている。ただそれだけ」という真子と一華の爽やかな笑顔も胸を打つ。競技ダンスのリード&フォローの概念を人間関係に置き換えて、友人や夫、妻、家族とのあり方、そして自分自身の生き方を改めて見つめたくなる。深みのある丁寧な作りには好感が持てる。
W主演の大塚千弘と内田慈のアンサンブルも素晴らしい。大塚は専業主婦の実母の姿を役作りのヒントに、サンバイザー&ママチャリで主婦の日常感を取り入れて、どこかにいそうなリアルな主婦像を創造。真子は漫才でいうところの天然ボケの担当だが、大塚のリアクションはナチュラルにコミカルで、コメディエンヌとしての才能を開花させている。
そんな動の大塚とは一転、名バイプレイヤーとして知られる内田はきめ細かい表現力で一華を立体化する。中でもダンスの練習中にふと真子に感謝を告げるシーンでの言葉選びとトーンは、2人が重ねてきた日々と深い絆を感じさせるベストアクト。撮影を重ねる中で真子と一華の関係性を掴んだ内田が、現場で急遽変更したという。内田は“その関係性でそのシチュエーションだったらそういう言い方をするよね”という納得の演技を至るところで見せてくれる。過多でもなく過小でもない、感情の表出が抜群に上手い。
若手人気俳優やお客を呼べるスター俳優は出演していないかもしれないが、確かな実力を備えた俳優陣が多数出演。「わたし空気読めないんで」が口癖の女性AD(清水葉月)、ムード歌謡歌手兼ダンスコーチ(木下ほうか)、責任転嫁系プロデューサー(新納慎也)、真子と一華の心に火をつけるお嬢様ダンサー(朝見心)など脇役にもしっかりと個性的な味付けが施されており、誰一人キャラクターとしてのかぶりがない。だから見ていて飽きない。
■LiLiCoら映画好き著名人も激賞
脚本・監督は、これが長編映画監督デビュー作となる藤澤浩和。井筒和幸監督や武正晴監督のもとで助監督経験を積んだ叩き上げだ。笑いのセンスが各所に光っており、画面からは、観客の目と耳を楽しませようという創意工夫が伝わってくる。エキストラの配置や動き、画作りも凝っていて画面に躍動感がある。藤澤監督が作品全体を俯瞰してコントロールしているのがよくわかる。今時珍しい、泣いて笑って元気をくれる王道エンターテインメントを作れる確かな手腕は、今後の飛躍を期待せずにはいられない。
著者も公開初日にスクリーンで観たが、上映後に「メチャクチャ面白いじゃん!」と明るい声を挙げる若い男性二人組がいる一方で、シクシクと感涙している女性もいたりして、受け取り方が人それぞれなのも興味深かった。撮影されたのは2018年だが、2年の時を経てテーマがより一層“今の物語”になった。コロナ禍という暗い1年だった2020年の締めくくりに偶然公開されたことも、映画の神様の采配であるかのように感じる。
公開記念舞台挨拶で大塚は「コロナ禍で暗いニュースしかない、そんな今だからこそこの映画は公開されるべき。何か新しいことに挑戦しようという勇気や元気を少しでも与えることができたら幸せ」とメッセージ。内田も「真子と一華の無茶な挑戦は周りから馬鹿にされるけれど、二人は『やりたいからやる』という気持ち一つで突破する。夢を語るのはタダ。価値観が変わっていく今の時代の中で、無茶な希望を持って生きることが元気になる秘訣」と力を込めていた。
著名人も絶賛の声を寄せている。映画コメンテーターのLiLiCoは『王様のブランチ』や自身のラジオ番組で「いい作品を見つけた!どういう風に生きればいいのか、そして人を応援する気持ちとは何なのかを考えさせられた。観ていて凄く楽しかった。そして美しかった」などと感想を述べている。俳優の鶴見辰吾も「善意の溢れるハートフルコメディ。応援したくなる温かみのある映画」とTwitterでエール。『レディ・トゥ・レディ』には、人の心を震わせて突き動かす力が確かにある。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)