GoToトラベル全国停止は、誤った「政治主導」…「国民守る責任感も見えず」 政権の迷走に豊田真由子が指摘
新型コロナ感染拡大の中、政府の方針が迷走し、国民に不安と不満が募っています。
例えば、「GoToトラベル、年末年始、全国で一時停止」
…うーん、そう来たか。しかも、このタイミングで。
本件について、私が特に深刻だと思うのは、以下の点です。
・政権の「国民を守る」という筋の通った方針と責任感が見えない
・政権の意思決定プロセスに重大な問題がある
もちろん、新興感染症に対処するに当たり、感染拡大防止策と経済喚起策は、国民の生命と社会を守るためにどちらも必要であり、感染状況等を見ながら、柔軟に対応を変えていくしかありません。それは確かです。
しかし、そこには、絶対に以下が必要です。
・(そのときどきの知見に基づく)科学的な整合性
・毅然とした説得力あるリーダーシップと説明
・状況に応じて、迅速かつ柔軟に対応するスピード感
・責任の押し付け合いではなく、国民のためになる、国と自治体の協働
・実効性ある、きめこまやかな対応を行うための、政官民の協力
こうした観点から考えると、ここのところ、政権が迷走している印象は否めないと思います。一体なにをどうしたいのか?? 守るべきは、なんなのか??残念ながら、国民は不安を募らせています。
そして、大事なことは、そうであるとするならば、例えば「GoToキャンペーンが停止になったから、行かない」のではなく、国民一人ひとりが、状況を見て、判断をして、必要と思われる策を、自ら講じていくという力も、求められるのではないか、と思います。
(そうしないと、政府が誤った判断をしたときに、国民も国も、為す術無く、誤った方向に行ってしまうという大きなおそれがあります。先の大戦の例などを持ち出すつもりはありませんが…。)
ちなみに、一方での「多人数で高級ステーキ会食」は国民の気持ちを逆撫でしてますね。
4人以下って言ってたじゃん!会いたい人に会えない、外出も我慢している、そもそも、経済的・健康的にそれどころじゃないこの先の生活が見通せない人たちも多い。飲食店の経営は大変厳しく、医療現場の皆さんは悲鳴を上げている…。そうした状況の中で「なんで、そんなことも分かんないんだろう?」と疑問に思われると思うんですが、政治の世界って割とそういうところなんです。残念ながら。(このご説明はまたの機会に。)
さて、前述した問題点について、少し考えてみたいと思います。
◇ ◇
(1)政府の筋の通った方針と責任感が見えてこない
11月中旬から、新型コロナの感染者が急拡大しました。政府は、大幅なGoToの見直し・停止には消極的でしたが、先週実施された各種世論調査において、内閣支持率が大幅に下落し、「GoToは中止すべき」との世論が多数を占めました。これを見て、「ヤバイ…」と思い、慌てて年末年始の全国停止に踏み切ったのでしょう。でも、これについては、きっと「えっ、そこ?!」と感じた方が多かったのではないでしょうか。
特に、危機下においては、「支持率が上がろうが下がろうが、真に国民のためになること、本来やるべきことを、きちっとやる」という胆力とリーダーシップ(※独善ではなく、正しい理解と判断に基づくリーダーシップ)を、国民は求めています。
本件に関する国民の不安や不満は、政府の方針が定まらないこと、一体全体何をどう守りたいのか分からないこと、に対してのものであって、場当たり的に、GoToを停止したからといって、支持率が上がるわけではなく、むしろ逆に失望を深めていっていると思います。
そして、国と自治体、相変わらず、ギクシャクしていますね…。感染症対策には、その緊急性や必要性から、法律的に「地域の実情は各自治体が把握しているが、決定する権限は国」といったことも多いですし、そもそも、その知事が、政権与党の支持を受けて当選した知事かどうか、ということが、実は大きく影響していたりします。政治の世界では、自分たちの仲間かどうか、というのは、どんなときでも、何よりも重要な指標なのです。
「何かを決めたら、責任や補償の問題が生じるから、皆で押し付け合っている」という指摘も、残念ながら、当たっています。そんなことは全く建設的ではないから、お互い協力してちゃんとやってよ、と思っても、そうはいかない。う~ん…。
◇ ◇
(2)意思決定プロセスにおける重大な問題
(誤った)「政治主導」、「官邸のトップダウン」の弊害が、止まらないなあと思います。
今回のGoTo年末全国一斉停止が、担当官庁に知らされたのは、会見の直前。3月の全国一斉休校のときもそうでしたが、まさにトップが独断で勝手に決めて、いきなり発表しちゃう。そして、あとは、下に丸投げ。…想像してみてください。皆さんの所属する職場や様々な組織で、そんなことが頻発したら、大変ではないですか?
担当である自分は一切知らされていない中で、いきなり発表があり、「こう決めたからあとはよろしく」と丸投げされる。
“トップダウン”って、果たしてそういうことなんでしょうか?そして、国家運営でそれが行われたら、影響は甚大です。
実際にこうした決定について、具体的に急いで制度を変更し、今後生じ得る多大な影響を実際にどう解決していくか、細部を考えていくのは、現場を含む担当官庁であり、そして、大事なことですが、実際に、最も影響を受ける人たちや学校、事業者等と、最も密接に関わってきているのも、彼らです。実務を無視した政策は、必ず綻びが出ます。
感染症対策、経済、財政・金融、社会保障、国防・安全保障、外交、農林水産業、商工業、教育、環境…等々、一国の政策は極めて多岐に渡ります。たとえ、どんなに優秀で経験豊富な方であっても、こうしたすべての案件について、誰よりも深く分かっていて、すべてにおいて正しい結論を導き出せるということは、あり得ません。であれば、大切なのは、深い理解力を持って、専門的なことを含め、忌憚のない意見を聞き、議論を重ね、そして、責任を持って判断していくことです。危機下で時間が無い中であればこそ、密度濃く、相互に信頼し合って、強く協働するべきです。
「それはやめておいた方がいい」と進言する、あるいは、刻一刻と変わる感染症の状況に対応した「プランB」(現在行われている計画が頓挫したときに発動される次善の策、代替プラン)を考えておくことも必須です。こうなったらこうしましょう、とシュミレーションして、進言しておくのも、役目です。だけど、それもできない。だって、決めるのは官邸だし、余計なことを言ったらひどい目に遭う。忖度しないと大変!自分と違う意見にも耳を傾けることは、自由と民主主義の根幹です。自分の意に沿うイエスマンばかりで物事を決め、国を動かそうとすれば、絶対的に権力は腐敗し、組織も委縮します。
そして、結局、こうしたことの影響を受けるのは、国民です。
◇ ◇
なお、誤解のないようにと願うのですが、わたくしは、“政権批判”をしたいわけでは、全くありません。
過去にはご一緒に仕事をし、どの方も懸命にやろうとされているだろうことも分かります。しかし、国民には全く伝わってこない。そして、残念ながら、いろんな方針が、的確・適切とはいえない。しっかりした説明もない。これではいけません。
役所と国会の両方で仕事をしてきましたが、そこにいたときには分からなかったことが、外に出て、初めてきちんと見えてきたものがあります。それを踏まえて、どうして、政と官や、そして、政官と国民との間は、こんなにも溝が深いのか。それぞれの思いが、どうしてお互いに伝わらないのか。どうしたら、建設的・協調的な関係を築いていくことができるのか。ほんの少しでも、日本の国に生きる皆様に、役に立つことがあったらいい、と願う次第です。
◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。