高齢者や障害者…誰もがファッションを楽しめる社会へ ユニバーサルファッションという考え方
日本の高齢化率は28.1%(2018年10月1日現在)で、内閣府によると2065年には約2.6人に1人が65歳以上、約3.9人に1人が75歳以上になる見通しだ。そんな超高齢社会時代の今、年齢や体型、サイズ、身体の機能、障害の有無などにかかわらず、全ての生活者がファッションを楽しめるような社会づくりを目指す「ユニバーサルファッション(UF)」の考え方が、ますます重要性を増している。25年前からUFの研究に携わり、日本に広めてきた第一人者である神戸芸術工科大学の見寺貞子教授は、バブル期には近鉄百貨店の商品本部で働き、長年ファッション流行の最前線にいた華々しい経歴の持ち主。そんな見寺教授がUFの大切さに気づいたのは、1995年の阪神・淡路大震災がきっかけだったという。
「私が百貨店にいた1980年代から90年代前半はDCブランドが大人気。インポートブームもあり、ファッションの本場フランスやイタリア、イギリス、スペイン、アメリカなどを飛び回っていました」。見寺教授はそう振り返る。
縁あって1994年から神戸芸術工科大学でファッションを教え始めたが、翌年1月17日に震災が発生。日頃から自分が好んで着ていたオシャレな服や靴、バッグが非常時には何の役にも立たなかったことに、「これまでの人生を全否定された」と感じるほど大きなショックを受けたという。
この経験を機に、見寺教授は「どんな状況でも、どんな人でも、生き甲斐や喜びを感じられるファッションを提案したい」と考えるように。こうして、従来のファッション市場からは等閑視されていた高齢者や障害者らのファッションについて、本格的に研究を始めた。
方向性が定まったのは、震災直後、兵庫県立総合リハビリテーションセンターの澤村誠志所長(当時)から「高齢者をはじめ、病院に来る患者さんはみんな服が灰色でどんよりしている。あれでは気持ちが沈む一方なので、ファッションで元気にできないか」と言われたこと。「明るい色を身に着けるだけでも、気持ちってずいぶん変わるんです。もしかしたらファッションにもできることがあるのかも、と目が覚める思いがしました」(見寺教授)。
以来、大学で学生たちにファッションを教えるのと並行して、各地で高齢者と障害者がモデルを務めるファッションショーを開催。中でも神戸市の兵庫区では震災10年の2005年から毎年、区役所などが「兵庫モダンシニアファッションショー」を開いており、見寺教授は監修や指導で関わり続けている。この取り組みはドキュメンタリー映画「神様たちの街」(田中幸夫監督、2016年)にもなった。
言うまでもなく人の体型は加齢によって変わるし、障害によっても変化する。車椅子の利用者にはウエストからヒップにかけての回り寸法を長くする、片麻痺がある人には下がっている方の肩にパットを入れるなど、着脱や造形の点で健常者の服とは異なる発想が求められる。見寺教授は「若い頃は気づきにくいですが、ファッションは決して若者のためだけにあるのではないんです」と指摘し、「だからこそ…」と続ける。
「服には高齢者や障害者の身体的特性を踏まえた工夫がもっと必要。日本には“9号神話”や、服の売り場を年齢(ヤング、シニアなど)で分けるような、世界的に見ても珍しい独特の文化がありますが、まずはそういう思い込みを取り除き、『体を服に合わせる』のではなく、『体に合った服を探す』ことがUFの第一歩になると思います」
団塊の世代が高齢者となり、年を重ねても元気で若々しい「新しいシニア像」が生まれている。研究の成果を18年前に著書「ユニバーサルファッション-だれもが楽しめる装いのデザイン提案」にまとめ、今年、教え子の笹崎綾野さんと共著で内容を改めた新版「ユニバーサルファッション-おしゃれは心と身体のビタミン剤」を出した見寺教授。「高齢者大学などで教えていると、最後にはみんなすごく綺麗になって、表情も明るくなります。新版のサブタイトルで示した通り、人はファッションで心も体も元気になれる。どんな人でもファッションを楽しめるようにするには、何が必要なのか。この本がそんなことを考えるきっかけになれば嬉しいです」と笑顔を見せる。
「ユニバーサルファッション」は繊研新聞社から2700円(税別)で発売中。
(まいどなニュース・黒川 裕生)