恐怖を体験して怯え切っていた子猫が心を開くまで 今ではゴロゴロと喉を鳴らす甘えん坊に
交通量の多い道路でひかれそうになっていた子猫は、なんとか自力でマンションの植え込みに逃げ込んで一命を取り留めた。保護されるまで15時間。子猫は朝から晩まで植え込みにじっと身を潜めていた。朝見かけた時は無邪気な顔をしていたが、夜にはすっかり怯え切り、何も信じないという目つきをしていた。
■道路でひかれそうになっていた子猫
2014年6月10日、埼玉県に住む村上さんは、出勤する時に交通量の多い道路の前で信号待ちをしていた。トラックのタイヤのそばで何か動くものがあったので目をやると、それは小さな子猫だった。渋滞中だったのでトラックは停まっていたが、車が動き出したらひかれてしまう。7匹の猫を飼っている村上さんは、子猫を放っておけなかった。
なんとかして子猫を捕まえようと思ったが、追いかけると素早く逃げてしまう。その様子を見て、トラックの運転手は笑った。笑われたことに腹を立てる余裕もなく、別の車の近くに行った子猫を村上さんは目で追った。
やがて車列が動き出し、子猫は間一髪で近くのマンションの植え込みに飛び込んだ。車道から脱出したので、村上さんはひとまず事なきを得たと思い、我に返った。
「仕事に行かなければ…」
子猫のことが気になったが、村上さんは出勤した。
■無邪気な表情が…一転、甘えん坊に
帰宅する時に植え込みをのぞいてみると、幸運にも子猫はそこにいた。朝、見かけたときは好奇心旺盛な子猫という感じがしたが、目つきが変わっていた。あの手この手でおびきよせ、抱き上げて保護したが、恐怖心から思いっきりかみついて逃げようとした。
「たぶん野良猫のお母さんが産んだ子で、歩けるようになったので嬉しくて、1匹で散歩に出たと思うんです。でも、道に迷って帰れなくなった」
村上さんが、夜、見つけたときは怯えきった子猫になっていた。すべてが怖い。全部が敵。何も信じないという目をしていた。おいしいごはんが目の前にあっても怖くて食べに行けない。「私が見つけてから15時間。ひとりきりで隠れていたらそうなっちゃうよねと思いました」
■ゴロゴロなんていうもんか!
このままでは生きていけない。そう判断した村上さんは、子猫を家に連れ帰り、8匹目の猫として飼うことにした。
名前は頭の模様にちなんで、おにぎり→海苔→海と連想し、かいくんにした。
かいくんは、とにかくおびえていた。何も信用しないぞという目つき。人間も猫も物音も、すべてが怖くて怖くてビクビクしていた。小さいくせにずっと隠れていて、威嚇して、遊ばない。
しかし、「ゴロゴロなんていうもんか!」という強い意志は3日で崩れ、スリスリ、ゴロゴロのあまあまちゃんに。6歳になった今でも心は子猫のままで一番の甘えん坊だという。ただ、15時間怯え続けていたトラウマもあり、極度のビビリは治っていない。少しの物音でもビクビクしてしまう。しかし、あれほどまでにウー!シャー!と威嚇していたのがウソのようにとても穏やかな性格な猫になり、大人になってから一度もシャー!と言ったことがないのが自慢だという。
「やることなすこと可愛すぎるんです。自分よりも小さい新入りの子たちと本気で遊んだり、そうかと思えば大好きな待ち伏せごっこでお目目をキラキラさせて待ち構えていたり。そんな姿を見るとどんなに時間がない時でもついつい遊んでしまいます」
村上家では、ぷっちゃんという子猫を迎えて以来の子猫。人間も猫たちもかいくんのパワフルさにげんなりすることもあった。しかし、子猫特有の可愛さにみんなメロメロ、結局何をされても許してしまう過保護すぎる環境でかいくんは育った。
村上さんは、先住猫たちのストレスにならないよう、かいくんを迎えた頃から家の中のプチリフォームをするようになった。壁にキャットウォークやキャットステップを付けたり、風通しのよい扉に付け替えたりしている。「人間以上に猫が住みやすい家にするべく、日々DIYに励んでいます」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)