クリスマス用品…かつて日本は世界一の輸出国!? 実は神戸の地場産業 シーズン間近は寝る暇もなく
今から約450年前、宣教師フランシスコ・ザビエルによって日本へ伝わったクリスマス。明治期には商業宣伝が行われていた「クリスマス産業」は神戸が発祥で、今も地場産業だ。
■欧米で人気を博した日本製のクリスマスグッズ
年中行事としてのクリスマスは横浜を発祥とする説が有力で、すでに大正時代には日本の文化になっていたといわれる。だが「産業」となると、話は違ってくる。
1947年創業でクリスマス用品の製造販売を営む中城産業株式会社の3代目社長・中城秀蔵さんによれば、ツリーやオーナメントなどグッズを製造販売する「クリスマス産業」の発祥は間違いなく神戸だという。
「明治30(1897)年頃、仏具に使われていた経木でつくられたモールが、神戸に住む外国人の目に留まって、クリスマス用品のモールとしてつくられたのが始まりです」
松や檜を薄く削って、神戸で染色加工されたモールは「経木モール」とか「莚(むしろ)モール」と呼ばれ、ほとんどが欧米へ輸出された。
それから戦前までは、紙、木、ガラス、アルミ箔、セルロイドなどの素材でモール、ホイルベル、ガラス玉オーナメントなどさまざまな製品がつくられ、輸出先の欧米でたいへんな人気だったといわれる。
■クリスマス製品で世界一の輸出国に
昭和20(1945)年に太平洋戦争が終わると、クリスマス業界は生産活動を再開。当時の日本製品は欧米から見て粗悪品のイメージが強かったが、昭和26(1951)年に現在の日本クリスマス工業会の前身・日本クリスマス・イースター雑貨協同組合が設立され、輸出品の自主検査を行うようになった。それからは品質が良くなり、輸出高も飛躍的に伸びていった。
昭和30(1955)年代に入るとは、新素材として石油化学製品が登場。加工の自由度が増して、多種多様な製品が生み出された。さらに優れたデザインと品質も相俟って、この時期の日本は世界一のクリスマス製品輸出国に成長し、神戸でクリスマス産業に携わるメーカーは数百社を数えた。
■オイルショックから内需主導型へ転換
売り上げの大部分を輸出に頼っていたクリスマス産業は、昭和46(1971)年のオイルショックと変動相場制による円高という二重の打撃を受けて倒産や廃業が相次ぎ、その後の10年間で事業者数が10分の1にまで激減した。
「このままだと、地場産業としてのクリスマス産業が消えてしまう」
危機感を募らせた生き残りの事業者は、互いに結束し協力し合うことで活路を見出そうとした。これまで欧米諸国を相手にビジネスを展開してきた豊富な経験とデザイン力を武器に、国内市場の開拓に取り組んだのである。
欧米向けのデザインを日本風にアレンジするなど努力を重ねた結果、昭和60(1985)年頃には現在につながるクリスマスのスタイルが定着し、輸出が落ち込んだ分を内需でカバーできる状態までに回復した。
■阪神・淡路大震災からの復興と最近のトレンド
阪神・淡路大震災では、神戸にある多くのメーカーや工場が壊滅的な被害を受けた。しかし、1月に発災したのは、不幸中の幸いといえる要素もあるという。
「クリスマスシーズンが終わっていましたから、商品関連の被害が最小限で済みました。あれがもし10月か11月頃だったらと想像するとゾッとします」
そして、多くの支援を受けながら、その年のクリスマスを無事に乗り切ることができたのである。
◇ ◇
では、最近のクリスマス産業はどのような状況にあるのだろうか。
「昔はクリスマスといえば子供にとって一大イベントでしたけど、今はハロウィンもあるし他にも楽しみがたくさん増えましたね」
「クリスマス関連の商品だけ100%でやっている業者は、もうありません。当社はクリスマス関連が今年は9割を占め、規模としては日本一です。ほかにハロウィン、七夕、お正月関連の商品を少し扱っています」
現在、兵庫県内で取扱商品の7割以上がクリスマス関連という事業者は、中城産業を含めると3社だという。
■クリスマス間近は社員総出でフル稼働
とくに今年は新型コロナウィルスの影響で店舗販売の売り上げが減った。ネット販売がやや増えているが、店舗販売の落ち込みをカバーするほどではない。
それでも、クリスマスを間近に控える10月から12月10日頃までの間は多忙を極め、寝る間もないほどだという。
「事務所に電話番1人を残して、経理担当まで出荷作業に駆り出して社員総出でフル稼働です。毎年この時期は覚悟を決めて、ひたすら仕事に没頭します」
そして年が明けたら早速、その年の新製品を企画したりデザインを決めたりする作業に入るという。「今も毎年、斬新で新鮮な感覚の製品を世に送り出しつづけています」
パーツの製造拠点は中国、韓国、タイなど海外へ移ったとはいえ、品質やデザインは日本から指定している。
専業メーカーは片手で数えるほどに減ってしまったが、クリスマス産業発祥の地は間違いなく神戸であり、今も地場産業であり続けている。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)